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英国病院留学 感染症科・救急部



 3月のElectiveで日本医学教育振興財団による「英国大学医学部での臨床実習のための短期留学」で、Newcastle大学において実習させていただきました。Newcastleではゆとりを持ちながらも充実した実習をすることができました。

 

1.   英国留学について

臨床留学と聞くとほとんどの方はアメリカを行き先に思い浮かぶのではないでしょうか。実際臨床実習を始めるまでの自分は、そう思っていました。それなのに、なぜアメリカではなくイギリスなのか。それは、いくつかの理由が考えられますが、自分としては以下の3つの理由によるものでした。1)身体診察に重点をおいた診療 2)NHSによる医療費無料の社会システム 3)GP制度 こういった日本とは異なる環境を実際にこの目で見たかったため、今回派遣して頂いた臨床留学プログラムに応募いたしました。プログラムではNewcastle大学に加えOxford大学、London大学 St. George校、Southampton大学、Peninsula大学の5大学から選択可能です。自分自身、Oxford大学およびLondon大学とNewcastle大学で迷ったのですが、複数の診療科で実習できる点にひかれました。今回実際に派遣された他のメンバーの話を聞いたところ、Newcastleでの実習は内容からみてみても、来年度以降の後輩にも十分お勧めできる良い病院だと感じました。

詳しく書くとキリがなくなるため、詳細は財団の報告書をお読みください。(国際交流室に置いてあるはずです。)

 

2.   準備

今回の留学を決めるにあたって、大学と財団による面接を受けました。また、それとは別にIELTSが留学プログラムの応募に必要でした。大学の面接結果をもらってから応募しましたが、日程が本当にぎりぎりになってしまったので、来年度以降のイギリス留学希望者がいらっしゃれば、事前に受けておく事をお勧めします。IELTS受験後、財団面接を受けて派遣が決まってからは、Tier 4ビザをもらい、留学に必要な書類を作成する期間が続きました。イギリスでの実習をよりスムーズに行うため、取得する必要はないのですがUSMLE STEP1の勉強や、友人とSTEP2 CSの準備を行い、また、実習中に参照するHandbookを英語のもの(メモ帳を兼ねて、MGHPocket Medicineを使用)に変更しました。

と、おおまかには上のような流れでしたが、皆さんが気になりそうなことに少し触れておきます。まず、学内での選抜で2人までしぼられますが、そこから確実に派遣の内定がもらえるわけではない事に注意してください。特に、自分たちの年に理事長が高久先生から変わったせいか、財団での面接の内容に変更点がでたように思います。具体的には、志望動機などではなく、医学知識の試問がされるようになりました。少なくとも基本的な医学英語は事前に身につけておかないと厳しいかもしれません。しかし、いずれにせよどの大学へ派遣されるか決める際は、IELTSの成績が重要になってくる事は変わらないようです。(これは確かではありませんが、大学ごとにIELTSの得点が異なっていたように感じました。)参考までに書くと、Oxfordだと少なくともIELTS 8.0以上、LondonNewcastle7.0から7.5くらいが必要になってきます。特に自分の学年はアメリカ、イギリスの大学に通っていた子たちをはじめ、一緒に派遣された学生はほとんど帰国子女で、現地で集合した際に驚きました。ただ、向こうに行ったら人とのコミュニケーションが全てですし、英語力はつけておくべきでしょう。実際、現地では移民が多く、各地の訛りも強かったため、一週間目は聞き取るのに苦労しました。スピーキングを練習すべき、とよく言われますが、それはノリでなんとかなる気がします。むしろリスニングできるように頑張ってください。自分はBBCPodcastを聞くだけでしたが、それだけだと実際の会話についていけるまで数日かかってしまいます。後輩の皆さんは自分の失敗をふまえて、初日から留学を思いっきりエンジョイしてください。

 

3.   前半(Infectious Disease

前半2週間はDr. PricesuperviseのもとInfectious Diseaseで実習しました。タイムスケジュールはだいたい以下の通りでした。

 

Monday

Tuesday

Wednesday

Thursday

Friday

AM

Clinic

Ward

Ward

Confarnce

Ward

LUNCH

teaching

 

ID/Immunology

Meeting

Xray Meeting

 

PM

Clinic

Clinic

Ward

Clinic

Ward

 ご覧の通り、基本的にWard(病棟)で実習を行い、時々Clinic(外来)見学が入っていました。Wardでは4年生の学生たちと一緒にまわり、午前中に回診を行い、その後採血など必要検査を行いました。午後は各種検査に患者さんが行かれるのですが、基本的に日本ほど検査があるわけでもなく、結構患者さんは暇そうにしています。そこで空いている方の病歴をよくとりにいくことが可能でした。それ以外の時間は患者さんの病気について調べたり、聞いたり、または学生や医師とおしゃべりをしたりもしていました。

 日本の感染症科の外来をみたことがないので比較はできないのですが、一人当たり20分くらいと、余裕をもって診察していたのが印象的でした。

 イギリス北部で最大の病院のひとつであったためか、AIDSや旅行者感染症(Malaria, Dengue, Lymeなど)Drug user、さらには移民がとても多くTBもたくさんみることができました。日本の感染症科は日和見感染や院内感染が多いイメージだったので、大きく異なる環境で学ぶことができて本当に勉強になりました。

 Infectious Diseaseでは後半にまわったA&Eよりも時間にゆとりがあり、お昼をみんなでのんびり食べたり、午後にお茶したりできました。そこでは日英の医療制度、医学教育の違いやどんな医師になりたいか、といった医学に関係のある話から、フットボールや音楽、宗教、旅行の話などなど様々なジャンルにわたって交流することができました。学生も医師も皆非常に親切かつ社交的で、毎週のように飲み会や食事会を開いてくれたり、フットボールを観にいったりしました。とても居心地がよく後半の2週間もカンファに参加したり、特に用はないけど遊びに行かせてもらったりしました。Dr. Priceをはじめお世話になった全ての先生方、そして一緒に実習を行った学生たちには心から感謝しています。

 

4.   後半(Acute & Emergency

後半はAcute & Emergency2週間実習させてもらいました。日本でいう救急なのですが、ERに加えてminor/major injury(外傷系)、assessment suit(後述)、ambulatory care unit(軽症メイン)など様々な部署に分かれていました。また、小児と産婦人科の救急は別にあり、分業化が進んでいる印象を受けました。自分が主にいたのは、assessment suitambulatory care unit、それからERでした。Assessment suitではトリアージがすんである程度容態が安定した患者さんに診断をつけ、各科の病棟に移す(もしくは退院)までの治療を行う部署です。ここでは新しく入ってきた患者さんの最初の問診を行い、registrarfoundation(チューベン)の先生にプレゼンしたり、毎朝夕にあるconsultant(オーベン)の先生の回診について診断の過程をみたり、採血・ルートなどの手技(基本的に学生がやります)をやらせてもらったりしました。また時間を見つけて、朝の回診で回った患者さんのなかで興味深い方(PE、家族性地中海熱、ベーチェット、サルコイドーシスなど)の問診をさせてもらったのですが、とても勉強になりました。お昼が14時すぎになったり、17時に帰れなかったり、とイギリスでは珍しい忙しい科でした(日本では普通程度の忙しさですが)。Ambulatory care unitではより軽症の方(DVT疑い、cellulitisUTIなど)ばかりでしたので、そこで問診およびそのプレゼンをすることは、はじめて海外で実習する自分にとってはとても良い環境でした。

感染症科もそうだったのですが、基本的に患者さんは皆、学生の問診や採血などにとても協力的で、充実した毎日がすごせました。

 

5.   日米英の病院実習の違い

これをお読みの方はすでにアメリカでの病院実習体験記も読まれているかと思います。僕が聞いたところでは、多くの病院では朝早くから夜まで実習があるみたいですね。しかし、イギリスでは917時が基本でした。学生だけではなく、医者もできるだけ17時に帰ろうとします笑。医者以外でできる仕事は極力分業し、時間内に終わることに全力を出していました。(ヨーロッパ全体に言えることみたいですが、オンオフがすごかったです。)しかしだからといって、仕事量が少なかったかというとそんなことは決してありません。救急にいた間は一日に、20人あまりをチームでみて、自分でも5-10人から採血やルートをとり、5人くらいの初診および報告して、さらに余った時間で朝見た患者さんのうち、5人ほどにお願いして問診と身体所見をもう一度とらせてもらいました。917時ですが、その間は集中していましたね。こういった事がやりたくて留学を希望したので、それができて、かつ17時には帰宅できるのはすごくありがたかったです。ルンバールまでやらせて頂いたのにはさすがに想定外でしたが・・笑。ただし、臨床・教育はきちんと行うものの、その分研究はあまりできていない印象でした。そこがアメリカとの仕事のスタイルの一番の違いだと思います。(Oxfordは研究をしっかりしていますが、臨床の仕事量が少し減るみたいです。)

東大と比較すると、イギリスの医学教育はとても臨床に重点をおいていて、学生の臨床スキルがとても高い印象を受けました。よく4年生と一緒にいたのですが、とても一個下とは思えません。上記のような内容の実習を毎日行っているため、手技や患者さんとの接し方は本当にうまかったです。あとで聞いて知ったのですが、Newcastle大学では病理や薬理などをひとまずスルーして先に臨床の勉強を始めるみたいです。それも様々なケース(一個目はCystic Fibrosisだったそうです)をもとにそれに関連する生理学や薬理学などを勉強していって、3年からは各科の病棟で過ごしつつその科のレクチャーを受け、4年生に基礎医学を含むレクチャーおよび試験を受けます。こうしたイギリスの教育と日本のそれと、それぞれの長所短所があるとは思いますが、僕はより臨床に則したイギリスの方が学生にとってはやりやすいかなと思いました。

 

6.      生活・観光その他

留学中はStudent Hallに住んでいました。食事が朝夕出てくるので料理をあまりしない自分にはとてもありがたかったです。ただし、イギリスの料理なのでお世辞にもおいしいとは言えませんが・・。 おかげで日本の食文化(日本食に限らず)の素晴らしさを思い知る事ができました。ただ、料理は味がないだけで、まずいというわけではなく、またお酒を皆で楽しむことができる環境だったので、自分は全体的に満足していました。Newcastleにつくまでは知らなかったのですが、イギリスでも屈指のナイトライフを楽しめる町だったらしいです。派遣が決まったときにイギリスの友人に知らせたところ、「夜遊ぶのには困らないね!」と言われてびっくりしたのを今でも覚えています笑。実際行ってみると、パブは17時前から飲んでいる人が大勢いて、ナイトクラブもいたるところにありました。パブはそれこそ週3,4回飲んでいたので十分満喫したのですが、クラブに行けなかったのは今でもちょっと後悔しています・・・笑(行く機会はあったのですが、疲れすぎて寝てしまいました)。

また、毎週末はせっかくイギリスまで来たので、勉強そっちのけで旅行しかしていません笑。Edinburgh, Durham, Leeds(友人を訪ねて), Londonと充実した観光ができ、実習で疲れた心身をリフレッシュすることができました。LondonではSt. Georgeに派遣されている学生たちと一緒にまわったおかげで、ガイドブックいらずで助かりました。自分はアーセナルファンなのですが、エミレーツスタジアム(アーセナルのホームスタジアム)で観戦できなかったのが唯一の心残りです。といっても、本場のパブでの観戦は何度もできたので贅沢な後悔ですね。

 

7.   終わりに

今回の留学では、準備の段階から多くの方々のお世話になりました。このような貴重な機会を与えてくださった国際交流室の丸山先生、Holmes先生、中川さん、推薦状を作成して頂いた医学部長の宮園先生、フェローシップで援助して頂いた大坪先生、様々なアドバイスを頂いた医学教育国際協力研究センターの孫先生、ピカリング先生、そして日本や留学先からメールで連絡を取り合って励ましてくれた友人や家族、その他自分を支えてくださった全ての方に心より感謝いたします。ありがとうございました。

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