Medicin/Geriatrik/Akutmottagningen, Endoskopimottagning GEA,Östra Sahlgrenska Universitetssjukhuset (Göteborg Universitet)

(イエテボリ大学付属サールグレンスカ東病院 内科/老年病科/救急病棟および内視鏡病棟)

実習感想

                                                                                                                M3 Male

 

1- 応募の動機と受け入れまで

 将来的に研究留学をしたいと考えている一方で、これまで人生のほとんどを国内で過ごしてきた私には言語面でも不自由なく生活できる程度の能力があるのか、そもそも海外で暮らすということそのものがうまくいくのか、といった漠然とした不安があった。そんな中、M1時に大坪修・鉄門フェローシップの報告会に参加し、このECの期間を利用し海外に留学できるということを知った。同時に実際に渡航した先輩の話を聞くことで研究留学だけではなく海外の病院での臨床実習に対する興味が湧いてきたこともあり、M3のこの期間を海外での臨床実習に充てようと決め、イエテボリ大学での実習を国際交流室に申し込むことにした。選択の理由として、病院実習が可能な協定校の多くはアメリカにあったが、ヨーロッパの病院で実習するのは滅多にある機会ではなく、また高福祉国家に暮らす医師やその他の医療スタッフ・そして患者がその社会システムに対してどのように感じているのか、といったことにも興味があったことがあげられる。先述したように海外在住歴もなく語学力に不安はあったものの6月に学内の選考を受け、1週間後に無事派遣が決まった。実習先の診療科の選択については、大学のwebsite上に提示されている留学生受け入れ枠を参考に、今回のEC期間中の実習が可能と考えられた消化器内科・神経内科・循環器内科の順に希望を提出した。これは私自身が研究室でヒトの肝臓組織を用いた研究を行っており、消化器内科の臨床研究としてもどのようなテーマが重要視されているのかを知りたいと思ったこと、そして興味のある「がん」の分野はもちろん、その他の消化器内科分野においても日本の疫学とスウェーデンのそれを比較できるのではないか、と考えたためである。11月に書類の提出および先方へのonlineでの応募を済ませ、11月末には希望通り消化器内科での実習が決定した。平行して寮の予約、医学英語の勉強および先述した第T期のEC申し込みなどを行い、2014210日からの実習に出発した。

 

2- カリキュラムの概要

 一人のレジデント(日本で言うところの後期研修医)1月の実習を通じて世話をしてくださり、加えて週ごとに大まかな担当教官が割り当てられた。基本的に午前中は病棟もしくは内視鏡室で過ごすことが多く、前者では入院患者の回診に同行し、後者では担当教官が行う上部・下部内視鏡検査および治療の見学が主な実習であった。午後には日によって内容が変化し、引き続き内視鏡の見学をすることもあれば、消化器内科の外来見学や、レジデントによる消化器のレクチャーが入ることもあった。また3週目には救急外来、4週目には循環器ICUの実習にそれぞれ2日間ずつ参加できた。

 

3- 実習報告および感想

 我々はイエテボリ大学付属病院の一つであるÖstra Sahlgrenska Universitetssjukhuset(サールグレンスカ東病院)で実習を行うこととなった。イエテボリ中央駅からバスで30分ほどの距離にあり、規模としてはイエテボリ市内では中央にあるサールグレンスカ病院に次ぐ大きさとのことである。初日に担当のレジデント(Dr. Papachrysos)に病院を一通り案内され、担当教官に紹介してもらい、実習の方針を相談した。そこでは消化器内科でどのようなことに興味があるか、消化器内科以外に見てみたい分野はないか、そしてスウェーデンでは冬期の1週間は(子どもを連れてスポーツをするため等に)休暇を取ることが一般的であり、ちょうど我々の実習の1週目がDr. Papachrysosのそれに当たっていること、を知らされた。そのため第1週は病棟と内視鏡室の見学にほとんどの時間を充てることになった。我々がお世話になった病棟はいわゆる「内科病棟」であり、消化器疾患だけではなくCOPDなどの他分野の疾患を持つ患者も入院していた。病棟医師の業務は(曜日によるが)朝8時から放射線科医と読影のカンファレンスから始まり、引き続いて看護師と担当患者の変化について議論を30分ほど交わした後に実際に患者を回診する、という過程を数回繰り返すことですべての患者を把握していた。一人の医師が受け持つ患者は10人と必ずしも多くはなく、医師二人と担当看護師でチームを構成しじっくりと議論していたような印象を受けた。我々はそのカンファレンスや回診に同席させてもらったが、残念ながら議論はすべてスウェーデン語で行われたためリアルタイムでその内容についていくことは到底できず、時折英語で解説してもらうという形で理解していった。午後はデスクワークが主になり見学できることも多くなかったため、内視鏡室で過ごすこととなった。内視鏡室ではベテランの二人の医師が中心となって主に大腸内視鏡検査・治療を行っており、彼らの手技を見学することがほとんどであった。我々が見学に来たことがわかると、彼らは患者や看護師とスウェーデン語でやり取りしつつ、英語で所見や治療法の解説をしてくださり、その度に勉強になった。内視鏡の中でもERCPは外科の担当であったこと、そしてdouble balloon内視鏡や食道ステント留置術は麻酔下で行われることもあり、それらの手技を手術室へ移動して見学しつつ、外科や麻酔科の先生から手技・麻酔の説明を受けることもあった。病棟も内視鏡室も基本的には3~4時頃にはすべての業務が一段落し、実習もそのタイミングで終了することが多かった。

 2週目以降はDr. Papachrysosが休暇から戻ってきたこと、そして今度はその他の担当教官が休みをとり始めたこともあり、午前中は病棟・内視鏡室見学、午後はDr. Papachrysosのレクチャーや彼が実際に受け持っている患者の診察に同行させてもらった。レクチャーではIBD・肝臓疾患についての概説の後に、彼が過去に実際に経験した症例を紹介しつつ鑑別疾患や治療法を考えるといった双方向的なものであった。彼自身はギリシャ出身であるため、時に英語にスウェーデン語が混じることや、説明のスライドそのものがギリシャ語で書かれていることもあり、互いに不慣れな状況ではあったが、日本とは大きく疫学が異なる環境で医療を行っている医師からのレクチャーは大変新鮮に感じられた。また3週目には救急外来で、4週目には循環器ICUにてそれぞれ2日間ずつ実習する機会を得た。救急外来では外科と内科救急の医師が常駐し、患者は症状・疾患によって振り分けられ、トリアージをされた後に医師の診察を受ける、という流れであった。我々の実習内容は患者の聴診等の身体診察を行い、担当のレジデントに報告するというもので、実際に英語を用いて診察したり報告したりすることの難しさを思い知った。循環器ICUでは救急搬送された不整脈・虚血性心疾患の患者や、他の病棟で心疾患の合併が判明した患者などが入院しており、我々は回診やエコーなどの手技を見学した。またそこでは同時にイエテボリ大学の学生も実習しており、短い時間ながら彼らがどのような実習をしているのかも垣間みることができた。また短い時間ながら外来見学もさせてもらい、IBDや自己免疫性肝炎の患者のフォローアップの様子を見ることができた。時には患者の方から提案されて腹部の触診をさせてもらえることもあり、医師の中だけでなく社会全体で医学生を育てようという雰囲気を感じた。

 

4- スウェーデンと日本の違い

 日本に比べスウェーデンをはじめとする北欧諸国では潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)の患者が多く、今回の実習でも病棟・内視鏡室いずれにおいてもIBDの症例を多く目にした。研究に関してもIBDには重きが置かれているようで、東病院の内視鏡室では臨床研究のための検体採取も見学することがあった。また消化器内科(およびそのほかの臓器別内科)では悪性腫瘍は扱わず、手術適応があれば外科に、適応がない患者はOnkologimottagning(腫瘍内科)に治療を一任しているという点も日本と大きく異なっていたように思う。

 スウェーデンの文化にはコーヒーが強く根付いており、病院の業務時間内にも“Fikaと呼ばれるお茶の時間が設けられていた。これはいったん業務を中断してコーヒーを片手にケーキやお菓子をつまみつつ、同僚と語らうといった時間である。そのためにコーヒーメーカーが各病棟に設置されており、毎日のように甘いケーキ類が出されていた。先輩からこfikaの存在は聞いていたが、実際に目の当たりにすると日本との文化の違いに驚かされた。病棟ではまず朝のカンファレンスが終わるとすぐにfika(まだ9時台)、12時から1時間かけて昼食を取りしばらく書類の処理をこなすとまたfika(2〜3時)といった具合に、一日8時間の業務のうちfikaに費やす時間も含まれていることを考えると、医師の勤務時間は日本に比べて遥かに短いことに気づかされた。さらに休日に出勤すると平日にその勤務時間の倍の休暇が取れる(例:日曜日に1時間働けば平日に2時間休める)という制度もあるらしく、これにも非常に驚かされた。

 病棟のスタッフをはじめ、数日しかお世話にならなかった救急外来やICUのレジデントに至るまで留学生である我々を温かく迎えてくださったことは心から嬉しく思った。特に内視鏡室の医師・看護師にはいつ見学に行っても快く受け入れてもらえ、我々も多くの時間をそこで過ごした。また手技の前後やFikaでは様々な話をすることができた。我々が日本から来ているため、折に触れて日本人の内視鏡技術の高さを例に挙げながら彼らが用いている技術を説明してくれた。スウェーデンの医療事情についても話を聞くことができ、内視鏡医の「スウェーデンでは高い税金を払う代わりに医療費や学費を払う必要がないが、それはただの選択の問題だ」といった言葉が印象的であった。

 基本的に現地の医学生とは異なるスケジュールで実習が行われたため病院では学生との接点は多くはなかったが、3週目以降はその時々に内科をローテートしていた学生とともにレクチャーを受けることもあり、また循環ICUにいた2日間は現地イエテボリ大学の3年生と、第4週はイタリアから来た留学生(5年生)とともに実習し、それぞれの国の医学教育・制度について情報を交換できた。スウェーデンの学生は我々より早く3年生から講義と平行して臨床実習が始まり、内容は回診や手技の見学、そして最後にレポートをまとめるといったものであり、日本と似ている部分が非常に大きいと感じた。逆に日本と大きく異なる点は、他国で医学教育を一通り受けた後にスウェーデンの医学部に編入する学生がかなりの割合でいるということであった。これはスウェーデンの医学部の定員が非常に少ない(医学部が国に7つしかない)ことが理由として挙げられ、3年生であっても実は我々より年齢が上だった、ということが少なからずあった。

 

5- 言語について

 事前に英語が十分通じるという情報があったため(そして自分の英語力がまだまだ足りなかったこともあり)出発前まではスウェーデン語ではなく問診などで用いるだろうと考えられた医学英語を勉強した。イエテボリ市内に到着してまず驚いたのは、人々の話す英語があまりにも自然であったことである。道行く人にバスの乗り方を訪ねても、コンビニエンスストアで定期券を買う際にも英語で話しかけるとすぐに(明らかに私より)流暢な英語で応対してもらえるのである。おかげで生活面では意思の疎通に困ることはなかった。しかし一方でスウェーデン語はHej (Hello)くらいしか知らない状態で実習に臨んだため、案の定当初は患者と医師の会話の内容が全く理解できず戸惑ってしまった。もちろん英語で解説はしてもらえたのだが、カルテを見てもほとんど情報が得られないなど不自由を感じざるを得なかった。この状況を打破すべく、寮では“Swedish in Three Months”という本を一ヶ月で学習終えることを目標に日々スウェーデン語の勉強に励むことにした。途中何度も挫けかけた(むしろ何度か挫けた)が、学習していくうちに少しずつ単語が聞き取れるようになり、新聞の見出しの意味がわかったりするようになると嬉しく、なんとか実習最終日までには一通り終えることができた。もちろんこの程度では医師や患者とスウェーデン語で会話、等というレベルには到底及ばなかったが、最後にお世話になった先生にスウェーデン語で感謝の気持ちを書いたカードを渡すことができ、思いのほか喜んでいただけたことがとても嬉しかった。今後スウェーデンで実習を希望する後輩には、出発前にぜひスウェーデン語の基礎を学ぶことをお勧めしたい。

 

6- スウェーデン留学を希望する後輩へ

 以上のように、スウェーデンは大変暮らしやすく実習も学ぶところは大きいと感じたが、この場をお借りして、我々と同じようにスウェーデンで実習を行いたいと考えている後輩に向け少しでも役立つ情報をお伝えできればと思う。

 生活面に関する詳しい情報は同じ実習を行った加藤有紀の感想文を参考にしていただきたいが、物価の高さは税金によるものが大きく、場所を選べば(他の欧州の国々と比較して)そこまで高いというわけではないと感じた。

 実習先の診療科選択について、我々はイエテボリ大学の留学生向けのwebページを参考に「受け入れ可能」とされていた科・期間に応募したが、最終週にイタリア人留学生が合流したことから察するに、実習期間はある程度融通がきく可能性がある。希望にあわない期間が提示されていても、おそらく(担当レジデントが受け入れてくれれば実習可能なので)交渉してみる価値はあると感じた。

 イエテボリ大学にはStudent Buddyと呼ばれる制度があり、希望すればイエテボリ大学の医学部生が医学系の留学生に対し生活面や実習面で相談役となってくれる。私には日本人の母を持つ学生が担当してくれ、特に寮に入って間もないころ、生活環境を整える時には(日本語が通じることもあり)とてもありがたいと感じた。またその制度を担っているINTETと呼ばれる学生団体は月に2~3回留学生のためにイベントを企画していて、それに参加することで現地の学生と多く知り合うことも出来た。

 言語については先にも述べた通り、スウェーデン語の基礎を学習しておくだけでも印象が大きく違うであろうと感じた。また医師に英語で説明してもらう際も、特に固有名詞等で訛のようなものを感じることも多かった。少々発音が異なっても「指しているものが何か」を予測することができるように、(相手にとっても外国語である英語で説明してもらっているのだから)聞き直して説明してもらえばしっかり理解できるように医学的な勉強を怠るべきではないとも感じた。

 

7- 最後に

 高度情報化社会となり、現代はインターネット等を用いればたちどころに世界中の情報が手に入る時代である。日本の医療技術・研究が世界最先端といえる分野も多くあるなかで、あえて海外へ留学する必要性はないのではないか、と考えたこともある。しかし今回のÖstra Sahlgrenska Universitetssjukhusetでの実習を通じ、消化器内科をはじめとする内科の臨床的な知識を得られただけではなく、日本とは文化的にも大きく異なる環境で暮らし、生活背景も異なる患者の医療に関わるという「経験」ができた。新しい言語を学びながら使っていくことを経て、コミュニケーションの重要性を再認識することもでき、画面の中や本からは得ることの出来ない体験に満ちた1ヶ月であったと思う。

 もちろん現地のレジデント・Student Buddyの学生や共に実習した加藤に助けられた部分は非常に大きく、自分一人では出来なかったであろうことは多いとは思うが、それでも1ヶ月何とか暮らしてゆけたこと、実習が出来たことは自信となった。

 また日本の学生実習に対する見方も変わった。これまでは米国式(研修医と同内容の業務を学生の段階から経験し、診療チームの一員となる)の実習と比較し、日本の実習は見学が主でとても診療に参加できるような状況ではなく、せっかくの実習が勉強にならないのではないか、と感じていた。今回(形式的には)日本と似たスウェーデンの実習を経験し、まず「欧州の実習は必ずしも米国式ではなく、またそれが絶対的なものではない」ということを知った。おそらく保険制度や社会システムの影響が大きく、国民皆保険である日本やスウェーデンは提供する医療の質を均一にするためにも積極的に学生に医療行為をさせることは多くないのではあろうとは思う。しかし一方で、現地の学生から聞いた「しっかり見学して先生に頼めばたいていのことはやらせてもらえる」といった話や、外来で患者の方から積極的に触診をさせてもらえたこと、内視鏡室の先生から”Do whatever you want!”という言葉をかけてもらったことからも、スウェーデンの社会は全体として医学生を取り巻く(見守る)雰囲気が友好的だとも感じた。もちろん日本の先生にも教育熱心な方は多くいらっしゃるが、日々の業務が忙しそうにしていらっしゃることもあり、正直こちらとしても遠慮してしまうこともあるのが実情である。またスウェーデンでは医師と患者の関係が対等でフレンドリーであるとも感じた。外来ではまず握手から始まり(見学の学生である我々とも握手をすることが多かった)、お互い足を組んで話をしていた。このような環境であれば医師としても学生の診察を頼みやすいであろうし、学生にとっても非常にリラックスして手技を行うことができると思った。スウェーデンと日本とでは文化・患者数や勤務時間が大きく異なるため単純にスウェーデンを見習うべき、等と言うことはできないが、学生としてもバックボーンとなる知識と積極性が必要であると感じるとともに、日本の医療を取り巻く労働環境・システムの変化がより教育的な「参加型実習」を可能にするのではないかと思った。

 最後に、今回の海外実習を行うにあたり丸山先生をはじめとする国際交流室の皆様、そして大坪修先生には大変お世話になった。この場をお借りして感謝申し上げたい。