M3 female

University of Gothenburg, Sahlgrenska Academy, Gastroenterology

 第U期(210日〜37日)はイエテボリ大学医学部 (通称Sahlgrenska Academy) の消化器内科で実習した。私はM1のときに2学年上の佐藤さんの留学報告を聞いたときからスウェーデンに留学したい!と強く思っており、エレクティブクラークシップの海外枠の募集が始まると真っ先にイエテボリ大学を第一志望に応募用紙を埋めた。主な志望動機は、スウェーデンが世界で最も男女平等が進んでいる国の一つであること、社会福祉が非常に発達していること、医師のQOLが非常に高いことなどが挙られる。医学部にいて女性の立場が低いとは感じないが、日本ではまだまだ女性の医師が少なく医師の労働環境がベストとは到底いえない状況だと日本での実習を通して感じていたので、スウェーデンでの状況を知りたいと思った。6月の日本語面接・英語面接を経て無事選考を通り、イエテボリ大学の留学生用のホームページでの諸々の手続きやCVPersonal Statementなどを書き、最終的に留学時期と実習先の科が決まったのは11月末だった(当然ながら東大病院でのエレクティブクラークシップの募集は終了しており、第3外科には直接連絡してT期に追加していただいた。ありがとうございます)。宿泊先は、イエテボリ大学のホームページから寮に応募した。いくつか寮があり、病院へのアクセスがどうなるのかは応募の時点では分からなかった。しかし、結果的に実習先の病院(Ostra sjukhuset)に一番近い寮に入ることができ、幸運であった。

 

●第一週●

 実習初日、担当であるDr. Nikolaos Papachrysos (通称Nikos)と病院入口で待ち合わせし、病院で着る服やロッカーを割り当てられ、第一週の予定などを話し合った。あいにく彼はその週休みを取っていて不在であるとのことだった。子どもの冬休みにあわせて「家族でウィンタースポーツをする休み」を取る習慣がスウェーデンにはあり、彼は今その休暇中とのこと。まるまる一週間休みを取ることができるようだ。第一週は主に病棟の回診や内視鏡室に出入りし、ESDEMRなどの内視鏡的手技や炎症性腸疾患のフォロー内視鏡検査の見学をした。内視鏡室の医師は皆「日本の内視鏡技術はすごい!」と日本を絶賛していたことが印象的だった。また休暇中のNikosが病院にやってきてスウェーデン語のパワーポイントを使いながら英語で炎症性腸疾患についてのクルズスを行ってくださった。炎症性腸疾患は北欧で罹患率が高く、入院患者の多くもクローン病あるいは潰瘍性大腸炎を患っていた。その他の疾患ではアルコール性肝炎やCOPDなどが多かった。消化器内科の実習といえど、病棟は「内科」という括りであるため様々な内科系疾患の患者が入院していた。

●第二週●

 二週目はNikosが戻ってきたため、午前中は内視鏡室見学、午後はNikosのクルズス、という形を取ることが多かった。Nikosのクルズスはスウェーデン語と英語が入り交じっていることや、パワーポイントがギリシャ語(彼はギリシャ出身)であることもあり、なかなか面白かった。一通り説明があった後は、必ず症例をいくつか提示し、「主訴は腹痛、下痢などなど・・・鑑別疾患は?どんな検査をまずしたい?」など私たちに問いかけてくれたため、理解が進んだ。また内視鏡のトレーニング室にも連れて行ってもらい、私たちも上部消化管検査の練習をするチャンスをもらった。設置されてあった練習用機械は、内視鏡と外部のコンピューターが連動しており、仮想の症例を実際に検査しているかのような感覚があった(ちなみに先端が食道に入るときにはちゃんとえづきリアクションを取るというおまけもあった)。

●第三週●

 Nikosが救急外来も見学できるよう手配してくれたため、火曜と水曜は一日中救急外来の見学をすることができた。スウェーデンの救急はオーベンが1人とレジデントが2〜3人待機している状態で、救急車や独歩で来院した患者のトリアージが看護師によってなされた上で医師に連絡が来るという形であった。ごく軽症な患者はオーベンがすぐに診察して帰し、中等症以上の患者はまずレジデントが診ていた。私たちはレジデントにつき、発疹、胸痛、動悸、呼吸困難などの患者を聴診・触診・問診などを行った。ほぼすべての患者が英語を話すことができ、スウェーデン語ができない私たちでも問診できてよい勉強になった。認知症のある患者でさえ英語が話せる国、というのは教育自体が日本と根本的に違うのだろう、と思った。頻繁に過度の飲水による低ナトリウム血症に陥る精神疾患持ちの患者が運ばれてきたときには、その採血の難しさやとてつもない浮腫を目の当たりにできた。やはり日本と同じように、習慣的に救急外来を訪れる患者はどこの国にもいるようである。また、日本では救急外来でも一般的であるエコー検査は行われず、かならず循環器内科や消化器内科にコンサルトした上で、その病棟の医師が行うという体制をとっていた。

●第四週●

 最後の週の火曜と水曜は循環器内科で実習をした。この病院の循環器内科にはCCU的な病棟と通常診療用の病棟があり、私たちは主にCCUの入院患者について勉強した。心嚢水の穿刺やAngelman症候群など初めて見る手技や疾患も多く、とても勉強になった。心電図や心エコーの検査も見学し、結果を読む練習もすることができた。また、実習中に院内をローテートしている現地の3年生や、最終週から消化器内科にやってきたイタリア人留学生とも交流する機会があり、お互いの国の医学教育の違いを話し合ったことがとても興味深く、面白かった。また、この週の火曜日はキリスト教のLentの開始前日ということで、スウェーデンではSemlaというシュークリームを食べる習慣がある日で、病院でも医師や看護師がコーヒー片手にSemlaを食べる姿が至るところで見られた。私たちも一つ頂いたが、大人の拳よりも大きく、驚いた。

 水曜日の午後には消化器内科の外来の見学もすることができた。クローン病、潰瘍性大腸炎の術後数年経過中の患者のフォローアップや、自己免疫性肝炎の患者の診察を見学した。会話はすべてスウェーデン語だったが、身振りや表情が豊かな人が多く、意外と意味が分かることが多かった。もちろん診察の前後で医師が英語で説明してくれたので、患者の現病歴などはよく理解できた。また、難聴の患者の診察の際には医師の言ったことをすべてPCに打ち込む、書き取り専門の職員が同席し、患者が聞き取れなかった部分は画面を見ることで補えるようになっていた。この職員はタイピングがとても速く、日本でもパソコンに長けている学生などがこのような補助をするシステムがあってもよいのではないかと思った。

 最後に、1ヶ月ほぼ毎日お世話になった内視鏡室の方々にスウェーデン語でお礼を書いたカードとお菓子を手渡しし、大変喜んでいただけた。イエテボリは初めて訪れる街であったが、どこでも英語が通じ、治安もよく、とても暮らしやすい街だと感じた。病院の方々も気さくではあるが、圧倒されるほどのフレンドリーさを示してくるわけではなく、居心地がよかった。今回、スウェーデン留学の機会を頂けたことを本当にありがたく思う。

 

*生活面について*

 ここからは病院の外での生活について少し触れる。実際にスウェーデン留学に興味がある方に参考にしていただければと思う。

 ●アクセス●

イエテボリは日本から直行便が無いので、ヨーロッパ内で乗り継ぎが必要である。イエテボリ空港(Landvetter airport)から市内まではFlygbussarnaというバスが出ている。イエテボリ市内と空港を結ぶのはこのバスのみなので、値段はかなり高めであるが利用せざるを得ない。さらに、このバスの券売機はクレジットカードしか受け付けないので注意が必要。

ストックホルムからSJという電車で3~4時間ほどでイエテボリに行くこともできる。早めに予約しておくと安い。ただし、電車の遅延は頻繁にあるのでバスの方がおすすめという話も。私はストックホルムから電車を使ったが、問題はなかった。

 ●クレジットカード●

 スウェーデンは高度クレジットカード社会なので日本で必ずクレジットカードを作ってくることが重要!!現金はあまりいらない。スーパーでの少額の買い物でもカードが使える。さらに、可能ならICチップ付きのカードを用意しておくと支払い時にサイン不要で、PINコードだけで済むので便利。もっとも、ICチップなしでもなぜかPINコードだけでOKなことも多々あったが・・・。スウェーデンではレストランなどでサービスに対するチップは不要。

 ●交通●

 イエテボリは路面電車(トラム)とバスが非常によく機能しており、どこに行くにも簡単に経路を調べられる。切符は車内で買えないので注意。Vasttrafikのオフィスか、コンビニで買える。私は1ヶ月定期をセブンイレブンで買った(7000円くらい)。バスやトラムに乗ったら定期を機械にかざすだけでOK。停留所は電光掲示板に表示され、降りたい停留所に着く前にSTOPボタンを押す。Vasttrafik.seというサイトで路線検索が簡単にできる。ちなみにバスとトラムの切符は共通であるが、この切符はイエテボリ沖にある島々にわたる船でも使える。結構な頻度で切符チェックを行う黒服のスタッフが巡回している。

 コペンハーゲンやオスロまではNettbusSwebusというバス会社が長距離バスを運行している。これはCentralstation内のNils Erikson Terminalから発着する。コペンハーゲンまでは4時間程度。バスは快適。

 ちなみにCentralstationは無料Wi-fiが使えるので市内でインターネットが必要になったらここへ。

 ●物価・食生活●

一般的に、北欧は物価が高い!といわれているが、本当に高い。しかし、なんでも高いわけではなく、外食や出来合いの食べ物(コンビニ飯のようなもの)が高い。もっとも私が行ったときにはひどい円安だったため、という要素もある(1SEK17円弱)。駅前のキオスクのサンドイッチが400~500円程度。しかし、スーパーで食材を買う分にはあまり高くはなく、野菜類は日本よりも大きくて安いことが多かった。よって自炊ができる人のほうが生活費は圧倒的に安く済むだろう。病院内での昼ご飯は、病院のカフェテリアか、1階の売店か、持参。カフェテリアは一度も使ったことがないが、バイキングで1回1000円ほどらしい。売店はあまり食べ物が充実している印象はなかった。病院スタッフも多くは弁当を持参し、控え室の電子レンジで温めて食べていた。また、スウェーデンはfikaというコーヒータイムを頻繁にとる習慣があるため、病院内でいたるところに無料のコーヒーマシーンがある。これは飲み放題なので飲み物についてはあまり困らない。コーヒーが飲めない人はココアとティーバッグのお茶が用意されているので大丈夫。

 ●寮●

私は家賃が一番安いという理由でRosendalというシェアルームの寮に希望を出し、もう一人の東大からの同期と相部屋にした。Rosendalは市内からやや離れており(Centralstationまでバスで20分。バスは10分おきに運行。)、Sahlgrenska hospitalまでは35分ほどかかる。Ostra hospitalまではバスで10分。毎日開いているスーパーが併設されており、大変便利。洗濯機は予約制だが、当日予約も可能で、苦労は全くない。しかし使い方がとても分かりにくいので誰かに聞くべし。

 部屋の備品は、前の入居者がどれだけ残しているかによる。私たちが着いたときには、布団とフライパンがなく、急遽、郊外にあるIKEAに買いにいった。電子レンジは無かった。それ以外は、ときおり必要なものを買い足す程度で不便さは感じなかった。WIFIはシェアルームにはあるようだったが、一人部屋の場合は有線ケーブルのみらしい。ケーブルは日本から持っていった方が良いと思う。

 IKEA311バスのBackebol norraというバス停にある。家財道具はやはりここが圧倒的に安い。

 ●治安●

 他のヨーロッパに比べれば治安はとても良い。しかしスリ対策はどこの国にいても大事なこと。

 ●郵便●

 スウェーデンには郵便局というものがない。私も荷物の一部を日本に送ろうとしたが、仕組みがよくわからず、断念。どうも、郵便を扱えるスーパーがあり、そこから荷物を送れるようだが海外への郵送については店員もよく分かっていないところがある。手紙類は町中にあるポストから送れるようだ。

 ●Intet

イエテボリ大学は留学生に対する受け入れ態勢が整っており、Intetという留学生のお世話をしてくれる学生団体がある。この団体はスウェーデン文化を楽しむ会を定期的に企画してくれたり、各留学生につき一人現地の学生をStudent Buddyとしてつけてくれたりする。留学の書類準備の段階でStudent Buddyをほしいかどうか書く欄があったと思うので、ぜひYesにしておくことをお勧めする。

●スウェーデン語●

基本的にスウェーデン人は皆英語が話せる、と思ってよい。しかし医者や患者さんはスウェーデン語を普段しゃべっているので、スウェーデン語を勉強していけばそれだけ得られる情報は多くなり、仲良くなりやすいので余裕があれば勉強していくのが良いと思う。私は寮の部屋に置いてあったSwedish in 3 monthsという教科書をどうにか1か月で終わらせたが、1か月経った頃にはかなり読めるようになった。しかしスウェーデン語には独特のリズムと発音があり、聞き取りはかなり難しく感じた。単語はドイツ語に似ていると思う。インターネットにいろいろなスウェーデン語教材を提供しているサイトがあるので調べてみると良いだろう。

スウェーデン留学の良い点の一つに、指導してくれる医師やほかの学生も英語が第一外国語である、という点がある。つまり英語を母語とする人の英語を聞き取れなくてもあまり問題はなく、お互いにわかりやすい英語で話そうと努力しているのが分かる。ただ、医学英語はしっかり覚えておくこと!

 

海外で実習をしてみたいが英語にやや不安がある、アメリカの実習は盛りだくさんすぎて辛そう、と思う人にはスウェーデンはおすすめ!北欧は町全体がとてもきれいで治安もよく、とても暮らしやすいと感じた。興味がある方、もっと詳しい話を聞きたい方はyukatou-tky@umin.ac.jpまでお気軽にご連絡ください。

 

内視鏡室の医師たちと。

Nikosの指導の下、内視鏡の練習。

看護師たちと。

病院の外観。