ミュンヘン大学(Ludwig Maximilians University of Munich

 2014 M3 male

 

 私は「部局間に基づく交流協定」のもと、ドイツはミュンヘンにあるLudwig Maximilian University (LMU)に属する研究室にて、2014年の17日から321日まで実習を受けました。

 

 本実習を通して感じたことは沢山ありますが、まずは短期留学を志す後輩諸君に伝えたいことがあります。それは、「志すからには必要な英会話能力・医学的知識を事前に身に付けて、実習へは意欲的に励むべし」ということです。さもなくば、実習を有意義に進めるのが難しく指導教官に多大な時間・労力を割かせるばかりとなるでしょう。加えて、現地の人達にとって東京大学からの留学生は、彼らの出会う数少ない日本人の代表であり、日本の一般的学生の語学力・専門知識・性格は留学生のそれから推して測られてしまいがちです。我ながら差し出がましくて恐縮ですが、つまり、不適切な留学生は相手方に迷惑をかけるのみならず東京大学の評判さえ落とすと言っても過言ではないと思います。

 

 それは何度も実感しました。「これまで東大からLMUへ来た医学生達に常識・ヤル気・英語力のどれかが欠如していたことが多く、問題が尽きなかったため大学間協定の存続が危うい」という話を、とある先生方から聞かされたこともあります。しかし幸い2014年は、LMUへ短期留学したもう一人の同級生が基礎研究に詳しく、私も英会話・医学研究の練習をして行ったためか、LMU側からの印象は良かったと伺いました。私は医学研究のイロハを学ぶため、2013年の8~12月、毎日の様に東大病院小児科(血液・腫瘍班)の研究へ参加しました。英会話に関しては、2年以上のあいだ週一回は留学生達と昼休み()を過ごすようにしました。それでもLMU自らの未熟さは感じたものですが、この努力があって初めて、留学先の先生方に迷惑を掛けず恥とならない振る舞いが出来たのだと考えています。

 

 さて、留学の大まかな流れは次の通りです。2014年冬の海外短期留学を希望する学生に対して、まず20134月と5月に医学部教務係から募集のメールがありました。それに従い、推薦者・奨学金受給者の選考用応募用紙を医学部国際交流室へ申請・提出すると、6月上旬に応募者を対象に面接が行われました。日本語面接の後に英語面接をされ、それらの評価に医学部での試験成績を加算したものに基づいて推薦者が決定されたと記憶しています。推薦者に選ばれたら、希望する研究室と東大奨学金それぞれへの申し込みを8月中に行い、その後はワクチン接種や留学先住居の問い合わせ等、細かい話を詰めて行きました。

 

 その頃は、臨床でなく研究での実習を受け入れていたのはLMUとペンシルベニア大学のみでした。私が研究実習を選んだのは、興味がありながらも4年生まで部活に没頭しておりその経験が少なかったためです。ドイツを選んだのは、より身近であり将来行く機会のありそうなアメリカよりも、近くに外国が多く文化面でも得られる刺激の多そうなヨーロッパにより強く惹かれていたためです。LMUへ行くことに決めてからは、Pubmed等の論文検索サイトにてその興味深い論文を探し(例えば『LMU Pediatrics Hematology Genetics』等で検索)、著者の属する研究室のホームページを閲覧しました。そうして決めたのが、小児免疫不全の遺伝子研究をしているChristoph Klein教授の研究室でした。

 

 それから手続きを進めるうち、それまで憧れだった海外留学が現実味を帯びて来ました。まず、予防接種・抗体検査の結果、東京大学の成績証明書などの書類を揃えました。Klein教授に直接メールをし、秘書の方と留学生課の方を紹介して貰い、実習の日程や初日の待ち合わせ場所を決めていきました。宿舎の設備(バス・キッチン・有線LAN)や値段(敷金300ユーロ+毎月250ユーロ)そして入居日などについては、LMUで日本人留学生の世話をして下さっていた成冨先生を丸山先生に紹介して貰って話を進めました。以上、とにかく早めに手続きを進め、然るべき人と連絡をこまめに取ることが肝要です。

 

 渡仏するのは実習開始の前の週木曜日とし、到着日はホステルに泊まったものの翌日から寮に住むことが出来ました。病院や寮の事務所などへ手続きしに行ける上、時差ボケを解消する時間もあったため、前週の平日に到着したのは正解だったと思います。

 

 研究室では毎日の様に新しく学べることがありました。指導医のMaximilian Witzel先生は初日、実習の目標を訊くとすぐに私の課題を設定してくれましたが、概要を説明された時には半分も理解できず非常に焦りました。それからの数週間は、その課題の書かれた紙と、研究室で見聞きした事柄のメモをもとに、こまめにGooglePubmedで専門知識を勉強することに努めました。そのお陰ですぐに、研究室でされる説明を理解したり、実験結果を報告し意見を述べたりするのに苦労することは少なくなり、幸いにして実験も概ね上手く進んだのでした。自分が主体的に進めた基本的な実験(PCR, プラスミド作成, 形質導入)と、主に先生がするのを見学した重要な実験(WB, FACS, ChIP)のバランスも良く、手技と知識の両方を効率良く学べました。これらに加えて、毎週のlab meetingでは全員が議論に参加するのを見ながら広く研究の最先端を知ることが出来、ある日の病院実習ではLMU6年生と一緒に問診・診察を経験出来ました。こうして、小児免疫不全の遺伝子研究について研究・臨床の基本から最先端にまで触れられました。

 

 研究実習のみならず、日常も素敵な体験に満ちていました。指導医Maxとはとても親しくなり、彼の冗談に笑ったり私が日本語を教えたりして毎日を楽しく過ごしました。研究室の人達とは毎日の昼ご飯を一緒に食べたのみならず、運良く年一度のハイキングに参加したことや、休日に仲の良い技師とスノーボードへ行ったこともありました。週末はほぼ毎週出掛けることにし、博物館で歴史や芸術に触れ、旅先で積極的に友達を作り、どれも忘れられない思い出になりました。

 

 全体を通して、未熟さを恥ずかしく思うことと、頑張ってきて良かったと思うことは、どちらも沢山ありました。あらゆることに関して、日々の行動の積み重ねが実を結ぶ、というのを痛感したのでした。丸山先生をはじめ、私にこの様な貴重な機会を与えて下さった皆様に心から感謝申し上げます。