オレゴン健康科学大学(家庭医療科・2週間)

M3 Male

■はじめに
僕は日本大好きなので海外で臨床をやる気は今のところ全く無いのですが、縁あって、アメリカに行ってきました。

(以下、ところどころ「差異」についての記述がありますが、「アメリカと日本」ではなく「OHSUと東大および僕の知る限りの国内医療機関」との差異について書いているものとして受け取ってください。また、僕が誤解していることが多分にあると思うのですが、誤解であってもひとつの理解であるとして率直に記述しました。ご容赦ください)

 

■きっかけ

4年生のときに「家庭医療」というコトバに出会い、「あー、これって自分がやりたいことと近いなぁ」と。今思えばそのときから何となくこの道に進むのだろうな、と直感していたのかもしれないです。

家庭医療の世界に向けてアンテナを張っていたところ、とある先生に出会い、彼の診療所に遊びに行って以来、ずっと繋がりがありました。その先生の属する地域医療振興協会という団体が研修医・学生をオレゴン健康科学大学(以下、OHSU)に派遣しているという話を聞き、せっかくなので海外の家庭医療も見たいということで2週間ほど行ってきました。

 

■準備

TOEFL iBTを受ける

→地域医療振興協会に申し込み書類を提出(7月)

→面接(8月)

→採用(9月)以後、現地スタッフの方とメールでやりとり(日本語)

→『地域医療のススメ』エクスターンシップ参加(10月)

Bioの提出、ESTA取得、航空券取得、OHSUで研修するにあたってのオンラインコースを修了する

→出発(1月)

USMLE不要

 

■内容
Clinic見学(診療所4ヶ所のうち2ヶ所)
・家庭医療科病棟見学(大学附属の病院)
Resident Conference
PCM(本学M2の内容に相当する少人数演習。教員1:学生10くらい)
Monitoring Quality of Care in the U.S. Healthcare System”(レクチャーを受けてdiscussionする。M2PBL」に近い)
Specialists and the Medical Neighborhood”(同上)
Refined H&P Upper Extremities/Neck”(M2「診断学実習」に近い)など
OSCE見学(Family MedicineOSCEMedical Interviewなどのコミュニケーションの項目がほとんど!)
Behavioral Health Video ReviewResidentの診察の様子を録画したものを題材に、指導医とともに振り返りをする)
Family Medicine Ground Rounds(レクチャー)
Palliative Descent into the Underworld
・その他随時行なわれるミーティングや勉強会に参加

■感想、考えたこと、振り返り

#1 オレゴンと日本の医療提供のシステムや医学教育の差異について学ぶ
#2
家庭医に求められる役割につき学ぶ
#3
日本にどのような家庭医が必要か、自分がどのような医師になりたいか考える
といった目標を立てて行ったのですが、達成度は7割くらいかな。自分の能力不足による部分が非常に大きいのですが、それでも5年の終わりに行って来られたのは良かったと思います。

 

#1 オレゴンと日本の医療提供のシステムや医学教育の差異について学ぶ

OHSUFamily Medicineは病棟の場として大学附属の病院を、外来の場として4つの関連診療所をもっていて、スタッフの一部はOHSUの職員という構造になっている、と僕は理解しています。それぞれの診療所の中にも4つくらいのチームがある。家庭医多い。手厚い。

 

入院が必要になった患者は大学附属の病院に送られ、各診療所に対応したチームが受け持つ。

病棟のチームは4つあり、それぞれの役割は次の通り。チーム編成はAttending, Resident, Intern31組。

 

@:診療所Aの患者

A:診療所Bの患者

B:診療所CDの患者

C:maternity care team

 

基本的に病棟はFamily MedicineGeneral Internal Medicineの医者が回していて、Specialistの医者はコンサルトを受ける、というシステムだったのがおもしろい。日本だと各科が病棟をもっているのがアタリマエなので、大きな差異だと思う。新生児であっても、患者の希望があれば小児科でなくFamily Medicineが(日本でいう主科として)みていくらしい(上記チームC)。

 

医者は通常診療所で働いていて、適宜大学に戻って学生教育をしたり、持ち回りで病棟指導医(Attending; オーベンに相当)をやったりしていました。Attendingは週ごとに変わるそうで、各診療所から交代で1人ずつ来るようです。主治医/指導医が変わると患者もResidentも大変だろうと思うのですが、患者は基本的に自分の診療所の患者だし、平均在院日数も5.5日くらいなので、回っているらしい。すごい。

* * *

他に大きく違うなと思ったのが、患者の待つ診察室にスタッフが入っていくこと。部屋も日本のようなカーテン仕切りの半個室ではなく、完全に閉じた個室だったこと。加えて、Nurse PractitionerPhysician Assistantといった職種がいること。Family Medicineをみていると、ほとんど医者と変わらないんじゃないかと思えた。資格をとるためのトレーニング期間の違いや給料の差はあるようだが、パッと見て「あの人はPhysicianであの人はNurse Practitioner」と言い当てることは僕にはできない。向こうの学生も明確な差異がよくわからないといったことを話していた。あるいはMedical Assistantさんがいると確かに医者の仕事は軽減するなと思った。

* * *

次に教育面。というか学生の話。アタリマエだけれども学生さんはみんな年上で、友だちになった子たちもみんな30歳過ぎ。"Are you married?" って生まれて初めて訊かれた。ノー、アイムノット。そうか、この人たちには養うべき家族がいるのか、と彼らの薬指を横目に見つつ考えた。

 

確かにDiscussionをする場は多いなとか、1年生から外来出るんだとか、みんな授業出ているなとか、医者になりたい人が医学部に行くんだなあとか思うところはいろいろあった。が、これって教育システムの違いからくるものなのだろうか。むしろ文化の違いとか、医学生のbackgroundの違いとか、そういったところが本質的なのではないか。

 

――などと考えていたため、アメリカすげーーうおおおお!! といったことには特にならず。なるほどそういう文化的背景があるのね、歴史的な経緯があるんだね、と一歩下がった立ち位置で見ていた。

 

ただし、授業の合間にコーヒーやお菓子やフルーツなんかが出てきたときにはアメリカすげーーうおおおお!! ってなった。感動した。東大も見習うべき。

* * *

さて、日本の医学生は6年かけてぬくぬく育てられて、初期研修も半分勉強みたいなもので……という批判をどこかで耳にしたこともあったが、僕は別にそれで良いんじゃないかと思う。アメリカはこうなのに日本はこう、なんて十把一絡げな文句は不誠実。

隣の芝生は青い。畑も違えば種も違う。なら、できてくる作物も変わってくるのはアタリマエ。という結論に至る。

 

#2 家庭医に求められる役割につき学ぶ

地域の住民が求めるものを見出し、それに適合していくこと。さて、方法論はどうしようか。実践が制度の樹立に先立つのか。

 

first contact

more health care

manage illness, navigate the health care system

adapt their care to the unique needs

using data and the best science to monitor and manage patients

ideal leaders of health care systems

partners of public health

 

なお考え中。ただ、Drugに手を出してしまい何とかしたいと診療所に通うようになった男性が問診票の医師に求めるものの欄に"DON'T GIVE ME UP"と書いていたのが忘れられない。

 

#3 日本にどのような家庭医が必要か、自分がどのような医師になりたいか考える

■実践

家庭医が病棟を回しているのは大きな差だなとは思いましたが、これをそのまま直輸入することはできない。まだまだ日本に家庭医が足りていないし、そもそもそういった文化ではないです。クリニックでの実践については上に書いたとおり。愚直にやっていくこと。

 

■教育

大学レベルでFamily Medicineを担うことは1つのテーマになると思う。

ただ、医療は本質的に地域的なので、成功しているところの丸パクリでうまくいくとは思えない。

教育の場が大学である必要は必ずしもないか。そもそも、教育する対象は誰か。

 

■研究

既存の枠組みから抜けだす必要があるが、土俵が違うと正しく評価されないジレンマがある。

ただ、学際的でおもしろい分野だと思う。もう少し時間が必要。

 

まとめると、日本が好きで、地域の住民が安心して暮らせればいいなぁと願うような家庭医が増えればいいと思う。どうすればもっと社会がよくなるか、自分の頭で考えることができて、かつ、それを実現すべく努力できるような家庭医が求められると今の時点では考える。標準的な医療を実践すること、若い世代を大切にすること、住民が何を求めているか見出し、それに応えること、自分も一住民としてその地に暮らすこと、考えるきっかけを提供すること。そして何より、楽しく生きること。