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今回、The University of Sydney 付属の医学校の内の1つであるNorthern Clinical Schoolにおける海外留学生用のプログラムに従い、4週間、シドニー郊外にあるRoyal North Shore HospitalDrug & Alcohol科で実習を行った報告をさせていただきます。

 

@    Applyするまで

 低学年の頃より、部活の先輩達が5年生の冬の時期に海外へ実習に行っているのを見ていて、そういったチャンスがあるのなら、自分も5年生になった時に行ってみたいという思いを抱いていました。5月頃にElective Clerkshipの海外実習に関する説明があり、大学を通して行くか、自らアポを取って行くのかで非常に悩みました。海外で実習した部活の先輩方の話を伺ったり、国際交流室のホームページに載ってある先輩方の感想文を読んで、結局自らシドニーへアポを取ることを決めました。その理由としては、夏には実習できるかどうかが確実に決定できその他のエレクラの期間の予定を立てやすいということ、シドニーは治安が良く時期的にも最高の季節であること、英語圏であること、実習自体の自由度も高く自分次第でどうにでもできるということ、過去に多くの東大生が実習していたということでした。

 また、個人的な事情としては乳製品アレルギーがあるため、海外に出ることに対して少し恐怖があり、海外旅行ですら香港にしか行ったことがない状態でした。そのため、言葉が違う上に乳製品を使う料理が主食になるような国での実習は、食事の面では非常に不安があり、なるべくなら自炊できるところがいいと思っておりました。そのため、特に慣れるまでは自由度の高いという点は自分の中では実習先を決める一つのポイントとなりました。

申し込みに関しては、国際交流室のホームページの先輩方の感想文を参考に行いました。予防接種に関しては、保健センターのトラベルクリニックを受診し、大学で受けてきた抗体検査の結果と母子手帳から足りない3種混合ワクチンなどをうってもらい、証明書を発行してもらいました。他に用意しなければならないDean’s letterや保険のMIPSなどは用意していたのですが、予防接種に関しては出遅れてしまい、結局申し込みしたのは6月の半ばごろだったと思います。夏休みに、無犯罪証明などを取得し、正式に実習が決定しました。

 

A    出発まで

 生活面などの準備としては、折角オーストラリアに行くわけですから、シドニー以外にもどこか旅行行きたいと思い、ガイドブックなどで調べ、実習前に旅行をしてシドニーに入ることにしました。その計画を元に、飛行機を予約し、ホテルも予約しました。宿泊に関しては、シドニーはホームステイを利用する人が多いかと思いますが、僕はFalcon Lodgeという格安ロッジに泊まりました。値段としてはホームステイより少し割高になりますが、ホームステイは当たり外れがあるということや病院まで徒歩で行けること(20分強)、上記の通り積極的に自炊したかったということでここにしました。他にはアレルギーに対してエピペンを処方してもらったり、シドニーで必須のサングラスを用意したりといった必要な物をそろえていきました。

 勉強面としては、英語の対策としてCNNニュースをリスニングしたり、TOEFLの勉強、医学英検の本やキク単メディカルを買って勉強したりしました。さらには、独特の発音であるオーストラリア英語に少しでも慣れるため、「Live from オーストラリア」というオーストラリア英語に特化したリスニング教材も用いました。また、実習先がDrug & Alcohol科ということで、USMLEの精神科の部分だけ少し直前に勉強しました。

 

B    実習

Royal North Shore HospitalDrug & Alcohol科はおもに3つのセクションに分かれており、Detoxという薬物依存やアルコール依存の患者が入院しているセクション、OTP(Opioid Treatment Program)という薬物依存の患者に対して外来で薬を処方したり定期的に面接を行うセクション、更には他科における薬物依存やアルコール依存の患者を診るClinical Liaisonというセクションがありました。初日に配られるスケジュール表に各日、午前と午後それぞれどこのセクションで実習が行われるか書かれており、それに従って各セクションで実習を行うという形でした。

具体的内容としては、以下の通りです。

Detox・・・毎朝8時ごろから研修医(intern)が入院患者の様子をラウンドして確認した後、nurseも含めた医師の各患者について話し合うカンファレンスが9時ごろから行われます。その後はその日に入ってくる患者の入院初診(admission)の見学や、医師の入院患者に対する問診を見学したりしました。専門研修医(registrar)に対して、医師の問診後に、その患者の状態についてプレゼンテーションを行うことも何度もあり、どういうことに気をつけて問診を行うのか、精神科独特の技術を学ぶこともできました。

OTP・・・opioid系のdrugに依存している患者に対する管理としては、オーストラリアでは主にmethadoneというagonistと、Suboxoneというantagonistpartial agonistを合成した薬の2種を主に用います。患者は毎日のようにこれらの薬を処方されに来ます。また、医師やsocial workerが定期的に患者をフォローしており、毎日午前と午後合わせて10名ほどの患者を医師が面談してフォローしていました。ここでは、処方される様子や問診の様子を見学したほか、social workerや薬剤師も含めたmeetingに参加したり、薬の患者用のパンフレットを読んだり、先生方に丁寧に教えてもらうことで、患者の治療の仕方を理解しました。

Clinical Liaison・・・主に薬を処方する資格のあるnurse practitionerが他科の薬物依存・アルコール依存患者を診ている部門です。基本的にはnurse practitionerが患者を診に行き、診察して依存に対する治療を考えるのですが、毎回患者の背景から、なぜこのような治療が必要なのかということを細かに教えてくれました。また週に一度、上級医(Senior Staff Specialist)による回診があり、その前のディスカッションや実際に病棟においての問診・診察する様子を見学し、説明を受けることで理解を深めました。

その他・・・週に1回は現地の医学生に対する授業や医学生によるプレゼンテーションに参加し、日本との違いを体感しました。また、あいている時間や放課後には、Sydneyが所在しているNew South Wales州の薬物依存・アルコール依存患者に対する治療法のガイドラインを通読することで、改めて治療方針などを確認しました。他には、専門研修医(registrar)に連れられてManlyと呼ばれる美しいビーチのある郊外のクリニックに赴き、患者のフォローの様子を見学し、ビーチでlunchを奢ってもらったり、市内の裁判所に赴き、そこで拘留中の薬物患者と面談を行ったりといった、貴重な経験もできました。

Internの先生方と           Senior Staff SpecialistDr. Glenys de Burgh

 

C    実習以外での生活

 自炊は結構やりました。そもそも物価が高いので、自炊した方がお得な気もしました。日本食が恋しくなった時は、病院から歩いて1015分のCrows Nestというところに日本料理屋が立ち並んでおり、中には日本食(日本米やふりかけやカップ麺などまで)スーパーもあり、非常に便利でした。また、病院から一駅行ったAtarmonという場所も同じような雰囲気です。また、病院内のZoukiというフードコートのような場所ではアジア料理があり、そこにはDairy Freeと書いてあり、乳製品アレルギーに関しては心配していたよりは快適に過ごせました。ネットに関してはロッジと病院のZoukiで無料Wifiがあり、そこで使っていました。

「地球の歩き方」は本当に買って行って良かったです。Sydney内には東京と同じで、都会の中に様々な観光名所があります。12月は20時ごろまですごく明るいので、夕方に実習が終わったらその後は十分観光できます(土日は言うまでもありません)。移動手段には電車・バス・フェリーがあるのですが、現地学生に教えてもらったTripViewという無料のアプリが、遅延情報まで出て非常に便利でした。Sydneyにいる知り合いの方に案内してもらったり、東大の仲間とともに真夏のSydneyを観光するのは最高に楽しい時間でした。

週に一度の留学生同士の飲み会(Social Night)は毎週参加しました。ヨーロッパ人が大多数を占めていましたが、各国の医学部生と話ができ、非常に刺激的でした。

 

D    実習を終えて

 海外経験がほぼゼロに等しかった僕には、行くまでは不安しかありませんでした。準備も勿論大変でしたし、ストレスがかかることもありました。出発してからも辛い経験は勿論ありました。出発は、関西国際空港からケアンズで乗り換えてエアーズロックに向かう予定をしていたのですが、関空発の便が3時間以上遅れ、ケアンズで乗り換えできなくなって、予約しなおし別便でさらなる経由地を経てエアーズロックに向かったのですが、機内食で、乳製品アレルギーであるという連絡が新しい便にいってなくて何も食べることができませんでした。他には、科が科であっただけに、患者と接していて怖い経験をすることもありました。また、英語力の低さも痛感しました。わかるまで優しく説明してくれる人がほとんどですが、中には英語が一回で理解できないとすぐにコミュニケーションを諦める現地の人もいました。

 ただ、多くのことを見て、感じたことは大きな自分への財産になりました。多くの価値観に触れて視野を広げられたことで間違えなく自分の幅が広げられたと思っています。Drug & Alcoholなどは日本では勉強しないですし、医療体系や病院の雰囲気なども日本と違い、参考にすべきところも多々あると感じました。また、右も左もわからず、言葉も違う国でまがいなりにも一カ月実習をやり通したことは、将来医師になって留学などする機会があれば大きな自信になります。そして、今回シドニーに行く上で多くの方々にお世話になりました。親身になってできるだけの協力をしようとしてくれた両親始め家族、奨学金やワクチンの件、書類の件でお世話になった先生方や大学関係者の方々、海外実習を決めるにあたって色んなお話をして下さった諸先輩方、その他、相談に乗ってくれたり話を聞いてくれた友人や後輩始め、挙げるときりがありません。この経験を生かせるか、還元できるかは今後の自分次第だと思っています。感謝の気持ちを持って今後に生かさねばと思っております。

 最後に、もし後輩の皆さんでオーストラリアに実習に行く人がいれば、先輩経由で、僕らシドニーに行った人の誰かに是非連絡とってくれれば思います。僕も秋に一つ上のシドニーに行った先輩にお会いしてお話を伺ったことで大きな参考にすることができました。快くアドバイスや相談に乗りたいと思います。