ペニンシュラ医科大学、Royal Devon & Exeter病院での臨床実習を終えて

M3 Male

 

 この度201532日〜27日の4週間にわたり、医学教育振興財団(JMEF)の英国短期留学プログラムを通じて、英国Peninsula Medical SchoolExeter校、Royal Devon & Exeter病院、Pediatricsにて、臨床実習をさせていただくことができました。

 

1.       留学までの経緯

1-1. 財団への推薦,IELTS

 東京大学ではM3(5年生)の最後の3ヶ月間を、Elective clerkshipと称して、海外留学をしたり国内の病院で実習をしたり、研究をしたり、といった活動に費やすことが推奨されています。何事も自分で見聞きしないと納得しないという面倒な性格が災いして、以前から、日本以外の臨床を自分の目で見てきたいという思いがあり、この期間は海外の病院での実習に当てようと考えておりました。ただ、あまりに日本の医療からかけ離れた場所(例えば米国のように完全自費診療に極めて近いところ)というのも少し違うかな、という気はしていました。そこで、日本と同様に医療費が国家予算で大きくカバーされるところで、それなりに高齢化も進んでいて社会構成が日本と近いところ、というクライテリアで、カナダMcGill大学(ここでは詳細は割愛いたします)と、本英国留学プログラムへの応募を決めました。

応募にあたり特段の準備はしませんでしたが、幸運にも東大内での内部選考は無事に終了し、財団への推薦を得ることができました。財団への応募にあたってIELTSを受験する必要がありましたが、このとき同時に米国肝臓病学会(AASLD)への演題登録や論文作成(と日々の実習)に追われていたこともあって、IELTSの試験はほとんどぶっつけ本番で受験して、なんとか財団への書類提出〆切に間に合わせることが出来ました。得点はL 7.5, R 8.5, W 6.5, S 6.0で、全体で7.0と決して高くはありませんでしたが、自分の英語力の現状としては概ね納得できる分布でした。余談ですがSpeakingは、「好きな食べ物は何ですか?」という質問に、「特に食べ物の好みはないです。(微妙な間)あ、でも、この後の質問に必要ということでしたら、、、日本食、あ、それじゃあ寿司が好きということにしましょうか」みたいに答えていたので、余計な尺稼ぎと取られてしまったのかもしれません。本心を語っただけなのですが、Speakingは面接試験の流れを遮らない程度に場馴れしておいたほうが良いのかもしれません。

1-2. 財団の面接

これも何の準備もせずに大学の実習から直行してしまいました。しかも東大から財団オフィスまでは徒歩20分ほどなので、遠方から受験のために待合室に集まってきていた同期の人達にはなんだか申し訳ないような気持ちになりながら面接室に入ったのを覚えています。

英語面接の最初は将来のキャリアプランを聞かれたので、正直に、特に感染症/免疫領域でのtranslational researchに興味があると話しました。1分耐久スピーチでしたが確実に1分以上しゃべりました(しかし止められることはありませんでした)。次に、Protein S欠損症(日英で遺伝的に頻度が異なる)を題材にして若年血栓症の患者に対する臨床推論の質問をされたり、Cardiac outputの生理学について聞かれたり、といった質問がありました。終始和やかな調子で、10分ほどで終了したように思います。

1-3. 実習科選択

面接から約1週間後に、実習先がPeninsula Medical School (PMS)に内定しましたので、続いて実習先・実習科の希望登録を行いました。感染症科と小児科が選択可能だったので、Exeterを第一希望として出したように記憶していますが、結局選択通り配属となりました。

1-4. 渡英準備

まず必要書類の準備ですが、先方からのConfirmation of Acceptance for Study (CAS)が到着したのが年末に差し掛かってからで、だいぶ慌ただしく書類準備を進めました。特に僕の場合、1月から2月上旬までカナダMcGill大学でも臨床実習をする予定になっておりましたので、CASの発行が遅くなったこともあり、カナダ渡航前に英国ビザを取得することは不可能と判断し、カナダから帰国後に優先サービス付きで英国ビザを申請しました。優先サービスは約15,000円の現金が必要でしたが、1週間以内にビザを取得出来ました。かなりきわどいスケジュールでしたがなんとか無事乗り切ることができました。

英語については、聖路加病院で主催された5日間のClinical Reasoning Workshopに参加したり、AASLDの学会発表に行ったり、ということ以外にはあまり使う機会もなく、たいして準備もできないままに1月のカナダ留学に突撃しました。カナダは多民族が入り乱れる上にフランス語圏の人も多く、英語がうまい人達ばかりではなかったので、逆にこちらも安心して議論に加わることができました。結局たいして英会話能力が上がったわけではないと思うのですが、とにかく考えたことがあったら発言する、分からなかったら聞き直す、というところで開き直ったことで気持ちはずいぶん楽になりました。

医学英語については、色々なお知らせサービス(無料です)やメルマガに登録して、NEJM, Lancet, JAMA, Clinical Infectious Diseaseといった臨床系の雑誌や、Science Translational Medicine, Nature Medicineといった基礎研究系の雑誌で新たに出た論文を、毎日数件流し読みしていました。かなり分野が偏っている自覚はありますが、単語やフレーズなど、実際それなりに役立っているのだろうと推察しています(これは後述するApplied Medical Knowledge examination (AMK)の時にも感じました)。

 

2.       現地入り

2-1. 宿舎到着まで

僕の場合、Jet lagを直すのに3日ほどかかると予想されたので、227日にロンドンに着いて、32日までに3泊できるように予定を組みました。まずロンドンで一泊し、28日の午後にエクセターに到着しました。電車とバスを乗り継いで行くあいだ、どんどん辺り一面が無人の放牧地と化していき、本当に人の住む街に着くのだろうかと不安になるくらいでしたが、病院周辺はイギリスの美しい田舎町を体現するようなところでした。宿舎であるJohn Patch Houseが標札も含めて全く見当たらず、これは冒険の始まりかとげんなりしていたところに、偶々通りかかってくれた現地のレジデントの方々に案内して頂き、思いの外スムーズに宿舎まで辿りつけました。東京では考えられないことで、しばし感動しました。宿舎入りして装備を整えたあとは、事前にボランティアの学生に近隣のスーパーマーケットの場所や名前を聞いていたので、買い出しに努めました(後述)。この日の夕方に相方の前田君が到着し、ボランティアで案内してくれていたStevenとともに夜ご飯を食べに行きました。

2-2. 宿舎

宿舎は基本的に現地のレジデントが使用しているものと同じようです。一緒に実習する前田くんのぶんも含め、ラウンジ部屋が2つ、寝室が2つ、キッチン1つ、風呂1つ、トイレ1つという環境でした。個人的にはトイレと風呂が分けられていた上に、風呂にはそれなりに深い浴槽がついていた点だけでもう満点でした。自分が必要と思う日用品は、日本から持ち込んだほうがスムーズだと思いました。食器はひと通り揃っていましたが、僕は小さなフタ付き鍋を持っていったので米が炊けて重宝しました(米も持って行きました)。シャンプーや石鹸類も持ち込みました。ちなみにWiFiは飛んでいないので、自分で日本からモバイルWiFiを持ち込むなり、現地で契約するなりして対応した方がいいと思います。部屋のスーツやタオルは毎週木曜日にAccommodation Officeに持っていけば交換してもらえました。掛け布団は日本にあるような羽布団ではなく断熱性のあまり高くない布なので、荷物に余裕がある人は布団を持って行くことをおすすめします。部屋の暖房も弱くて、とくに外気温の低い日はとても寒いです。また、キッチン・風呂・トイレは毎週一回掃除してもらえると言われましたが、実際にはトイレットペーパーとゴミ袋が補充されただけでした。

一点、気をつけるべき点はドアの鍵です。John Patch Houseの場合、宿舎の外側の鍵だけでなく、宿舎内でもラウンジと寝室のドアはオートロックになっています。つまり、部屋の中に鍵を放置したまま部屋のドアを閉めると詰みます。僕の場合は最初に親切に案内してくれた現地のレジデントの方々がこのことについて再三警告してくれたので、そういった事態に陥らずにすみました。

2-3. スーパー

宿舎から最も近いのがWaitroseというスーパーです。かなり品揃えもよく、買い出しでお世話になります。宿舎からは徒歩20分程度です。基本的に朝730分から営業していますが、日曜のみ11時からになるため、日曜に買い出しに出る際には気をつけてください。Exeter Centralのほうには、TescoSainsbury’sといった名前のスーパーがありますが、Waitroseより小さいです。

 

3.       実習開始(第週目)

<初日>

初日は朝9時にRILDという建物で書類を書いた後、Associate DeanDr David Mabinから30分程度のカジュアルなオリエンテーションを受けた後、小児科病棟に移動しました。行ってみたらConsultantとして担当になっていたDr Simon Parkeがいきなり一週間休暇でいらっしゃらないとのことで驚きましたが、なんとか小児科病棟チームに合流出来ました。現地の医学生と一緒に、午前中は病棟回診に着いて回りながら、症例について質問したり聴診所見をとったりしていました。この日は午後から別の病院にあるOccupational Health Centerで検診を受けなくてはならなかったため、12時頃に抜けさせて頂いて検診に行ってきました。その後はパスポートサイズの写真(日本から持ってくるのを忘れたため!)を求めてExeter Centralをさまよった挙句、£8もする写真を撮ってもらい、RILDに戻って名札を発行して頂きました。さらに図書室の入館カードをもらい、NHS IT Serviceに電話をしてUsernamePasswordの設定をしてもらって、図書室のパソコンが使えるようになりました。ちなみにこの電話ですが、口頭で名前をスペルアウトしてオペレーターに伝えないとアカウントが発行できないという驚きの仕様となっておりました。僕の場合は”M””N”に、”S””F”を聞き違えられかけて苦労しました。

<2日目以降>

小児科は、午前中から昼すぎまで病棟回診をしたのち、午後は必要な患者についてもう一度診に行ったり診療サマリーを書いたり、という形で病棟業務が進んでいました。実習は完全なObservershipで、一緒に回っているドクターによってさせてもらえる・教えてもらえる内容にはかなりのばらつきがあるようです。僕の場合、2日目に回診についたDr Rachel Howellsが非常にパワフルで教育熱心なSuperladyで(周囲からもそう呼ばれていました)、病棟に入院中の患者の身体所見や検査値について、取り方や解釈など非常に多くのことを勉強でき、3日目以降が楽になりました。また午後はPediatric Assessment Unit (PAU)と呼ばれる小児版Walk-in ERのようなところに連れて行ってもらい、2例の病歴聴取とプレゼンテーションをさせてもらって、その後一緒に診察をして頂きました。3日目以降も午後はPAUに行って、毎日異なる症例に接するよう務めていました。

一週目に経験した症例をまとめてみます(鑑別を要する病態も合わせて記載します)と、新生児髄膜炎・敗血症、一過性滑膜炎・化膿性関節炎、骨髄炎、細菌性結膜炎、急性細気管支炎、ヘルペス口内炎・哺乳不良・脱水、21トリソミー、甲状腺中毒症、脳性マヒ、細菌性肺炎・誤嚥性肺臓炎、熱性けいれん、自殺企図、アセトアミノフェン中毒、とこのように感染症が多かったですが、病歴・身体所見上の注意点が成人のそれと異なるものも多く、とても勉強になりました。

 

4.       実習(第2週目)

二週目からは実習担当のDr Parkeが戻られて、各種Teachingのアレンジなどをしてくださったため、急激に活動範囲が広がりました。

火曜日はMicrobiologyDr Marina Morganのご厚意で、微生物検査棟(1階から3階まで建物全体が微生物関連の検査室になっていました)を回りながらのTeaching roundに参加させて頂きました。現地の医学生(なんと1年生!)2人と同行しました。大きく感染症の検査はMicroscopy & culture, Serology, Molecular testingの3つに分かれる、という出だしに違わず、1階がMolecular testingPCRや質量分析器)、2階がSerologyELISA)、3階がグラム染色室、血液培養装置などのいわゆる細菌検査室となっておりました。ラウンドを担当して下さったNagel先生は質問をするたびに丁寧に回答して下さったため、少々質問をしすぎてしまい、当初の予定より1時間も延びてしまいましたが、非常に興味深く見て回ることができました。SerologyLyme病ボレリアの抗体検査がルーチンの中に含まれる代わりに、麻疹の抗体検査が表の欄外に書き加えられているなど、日本との疾患スペクトラムの違いを意識させるような点もいくつかありましたが、逆に日本の知識がそのまま通用する点も多く、病気、特に感染症は国境を超えると改めて感じました。

水曜日はDr Parkeの担当されている血友病クリニックにお邪魔させて頂きました。血友病Bの稀な表現型であるLeiden型の男児がたまたま訪れていて驚きました。また、頻回の関節内出血によって関節拘縮が進行した子供もいて、拘縮度合いの計測兼リハビリをしているところにも参加させてもらいました。重度の血友病の男児も一人来ていて、定期的に凝固因子製剤を補充していました。英国では血漿由来製剤は現在全く使われておらず、全てリコンビナントだということだったので、製剤にかかる医療コストや血液感染症の話題で盛り上がりました。

木曜日は、プログラムの予定にはなかったのですが、Dr Mabin、および受入先のGeneral Practitioner (GP)であるDr Alex Hardingの好意で、一日GPクリニックを見学させていただくことができました。非常に多岐にわたる疾患・背景を持った患者が訪れていましたが、実際は予約の電話の段階で”triage”が行われていて、ナースやカウンセラーの方に紹介されることも多いらしく、必然的にGPの診察を受ける枠を勝ち取ってきた患者は多くの問題を抱えて複雑化しているようです。英国ではGPのほうがより多様で複雑な問題に対応しなければならないと認識されているらしく、給料もより高いそうで、週3日働けば人並みの生活が送れるのだとか。ただ、実際はその仕事の大変さから、週4日以上働くのは相当の精神力が要求されるとのことで、day offを設けているGPの先生も多いのだそうです。午前中はDr Hardingの外来を見学しましたが非常に予定が詰まっており、面接の時間は15分以内に限定されていました。ただ、疾患が複雑であるのみならず、入り組んだ家庭の事情や精神的ストレスといったものも抱えて訪れる患者が多く、答えのない問題に対して葛藤を抱えながらも患者と向き合う濃密な15分の連続で、見学しているだけのこちらでさえ疲れてくるほどでした。午後は同クリニックの Dr Griffithsのもとで、外来で医療面接の実習をさせていただくことができました。2例を担当しましたが、1例目はMildではあるものの自殺企図のあるうつ病、2例目もアルコール乱用歴を筆頭に社会歴が入り組んでうつ傾向になっている尿路感染症/水腎症疑い、という複雑な症例で、なかなかハードでしたが、最終的には和やかな雰囲気に持っていくことができて一安心でした。

そして金曜日は、これも予定にはなかったのですが、Dr Ventakaにお世話して頂いて、Neonatal Intensive Care Unit (NICU)での一日実習が実現しました。早産児が10名ほどNICU管理もしくは観察とされており、ほぼ全例で主訴は新生児呼吸窮迫症候群と哺乳不良でした。最も重症な児では、呼吸不全から呼吸性アシドーシスが進行していたために気管挿管となり、臍帯動静脈ラインも確保され、イギリスに来てからは余り見かけることのなかったエコーが登場し、心血管系・脳が評価されました。弁膜症や血管奇形はありませんでしたが、動脈管開存症が合併しており、また脳では微小出血が確認されるなど、まさに教科書通りの典型的な症例を経験出来ました。新生児の挿管・臍帯動静脈、脳のエコーなど普段なかなか見られないものが盛り沢山でとても勉強になる一日でした。

この週は毎日別々の実習を行ったため、非常に勉強になりましたが、金曜の夜は睡眠不足と疲労でふらふらになりました。経験した症例と必要な鑑別について思い出せる限りで列挙してみますと、血尿(HUS, ITP, TTP, IgA血管炎、腎盂腎炎)、視野障害・意識障害(髄膜炎、脳炎)、菌血症/Panton-Valentine Leukocidinによる血球減少症、新生児慢性肺疾患、Leigh症候群(ミトコンドリア脳筋症、ミトコンドリア病)、Rett症候群、Batten症候群、T型糖尿病、Wilmus腫瘍、憤怒けいれん、血友病A/BLeiden表現型、新生児呼吸窮迫(肺低形成、心血管系奇形、敗血症)、早産児、双胎間輸血症候群(ここまで小児科)、手根管症候群、血管浮腫?、結膜炎?、放射線照射後皮膚炎、骨粗鬆症・骨壊死、リウマチ性多発筋痛症、学習障害+虐待/家庭内暴力、早発閉経、ヘモクロマトーシス、COPD急性増悪、確定診断のための精査を希望せず緩和ケアを希望する大腸がん?、うつ病、尿閉(薬剤性、前立腺肥大、神経因性膀胱、糖尿病、パーキンソン病、多発性硬化症)(ここまでGP)、ということで、とにかく多くのことを勉強する必要がありそうだということが骨身に沁みた一週間でした。

 

5.       実習(第3週目)

第3週目からは、Dr ParkeAccident & Emergency (A&E)Dr Fordhamとのご厚意で、A&Eの見学ができるようになりました。A&EではMajorMinorに加えてConsultant Clinicというものがあり、Walk-inの患者をConsultantが診察して必要な振り分け(定期再診を含む)をする、というGPクリニックのようなこともしていました。朝と午後は忙しすぎるし小児科の実習とも重なってしまうということで、主にランチタイムに行われる引き継ぎと、何人かの患者の診察に同行させて頂いていました(このためなのかどうかは分かりませんが、Dr Fordhamはランチ休憩を取っていらっしゃいませんでした!)また、この週の水曜朝には医学生5年生を対象としたEmergency Simulationの実習があり、これも現場で見学することができましたが、医学生6人がチームを組み、役割に分かれて、患者(人形ですが、別室でDr Fordhamが操作するためリアルタイムで状況が変わります)の容態のモニタリング、静脈ラインの確保、輸液、放射線科への電話連絡(別室でDr Fordhamにつながります!)、動転する患者家族(チューターが迫真の演技でした)への対応、看護師(これも医学生が担当します)とのコミュニケーション、などなど、これら全てが同時に進行しており、非常に再現度の高いシミュレーションで圧倒されました。状況を整理したあとはDr FordhamからのFeedbackTeachingがあり、ガイドライン上の注意点や特殊な手技の模型を使った実演などが行われました。我が国における救急医学教育のそれは依然として座学中心であることが多いように感じますが、救急現場においては教科書を見るよりも早く体が動くこと(そして同時に鑑別と治療計画を決定すること)が要求される上、錯乱する患者への対応など、教科書でどうにもならないこともしばしば経験されます。こうしたシミュレーション教育は、医学生と臨床医とのギャップを埋める上で非常に重要な役割を担っているように感じました。余談ですが、小児科病棟でも、会議室に貼ってあるポスターの殆どは医学教育・シミュレーション教育に関するものでありました。本病院が、イギリスのGP不足を解消するためにUniversity of ExeterPeninsula Medical Schoolが合同で設立した比較的新しい教育総合病院であるということも背景にあるかもしれません。ちなみに、今回のテーマはUndifferentiated unconsciousnessということで、糖尿病性ケトアシドーシス、セロトニン症候群、オピオイド中毒、の3例が扱われました。

また、水曜日の午後にはApplied Medical Knowledge examination (AMK) と呼ばれる試験を受けさせて頂きました。これはこちらの医学生が毎年4回受ける共通試験だそうですが、興味深かったのは、1年生から5年生まで共通の試験を受けるのだそうです。学年ごとに大体の相場があって、5年生の場合は50%程度ということでした。(必須ではないそうですが医師も受験することがあるようで、得点の目安は60~70%だそうです。)3時間で125題、間違えると0.25点の減点となりますので、実際は約56%の正答率で45%の得点になります。問題の水準は日本の国家試験の臨床問題よりもやや簡単な程度で、10秒〜1分/問でサクサク行けましたが最後の方は疲れました。薬理作用・解剖などから臨床全科まで出題されていましたが、分子生物学・生化学の出題はありませんでした。

金曜日にはDr ParkeEndocrinologyと合同でやっているOncologyクリニックを見学させて頂きました。抗癌剤治療を経験したSurvivorたちの長期予後をフォローしているという興味深いクリニックでした。毎月1回開かれているそうですが、今月は脳腫瘍と白血病の骨髄移植後、という最重症グループでした。もちろん、放射線照射と化学療法の後遺症として、下垂体・視床下部機能低下、白内障、甲状腺機能低下、心毒性、あるいは二次性の発癌リスクなど、多岐にわたる合併症を考慮しなければなりません。が、このクリニックの目的はそれに留まらず、既に成人した20台の患者たちに自身の病気や予後について教え、健康管理の方法と意義についても教育し、さらに社会生活を始めつつある患者とそのパートナーたちに必要なケアまで行っていました。このような外来は東大病院では今まで見たことがなかったので、とても貴重な経験でした。

今週はA&Eでの実習が増えたため、経験した症例の内容も大きく変わりました。外傷と整形外科疾患、心房細動、虫垂炎疑いなどA&Eらしい疾患に加えて心肺停止も搬送されてきました。またシミュレーションでは意識障害の鑑別と救急対応について学びました。さらにOncologyクリニックでは星細胞腫、急性リンパ芽球性白血病とその晩期合併症について学びました。教科書的ないわゆる「疾患」以外にも、現場での実際の「対応」についても数多く経験することができました。

 

6.       実習(第4週目)

4週は再び小児科病棟での実習が中心となりました。今週のConsultantであるDr Rebecca Franklynは非常に教育的配慮の篤い方で、学生に対しても(現場のドクターに対しても)、時に手厳しく、指導をして下さいました。Dr Franklynのもとで、毎日2,3例の患者について医療面接をしに行って、あとでフルプレゼンテーションを行い、フィードバックを得る事ができました。(Serologyでの確定診断はついていないですがおそらく)Epstein-Barr Virus初感染による伝染性単核症に、アモキシシリンが加わって重症化した多形性紅斑の一例、髄膜炎やライム病、リケッチア感染症との鑑別を要した不明熱と頭痛、発疹の一例、などなど、かなり手強い感染症関連の症例に次々とあたってしまいましたが、もともとこちらの方面に興味があったので非常に興味深かったです。次から次へと不明熱の患者が入院してきていましたが、特に小児領域においては、入院となるほどの不明熱の患者といえばほとんどすべてが感染症、と言っても良いくらいですが(腫瘍も鑑別には上がりますが)、こちらではいわゆる「不明熱ワークアップ」というものを血液培養と基本血液検査くらいしか行っていなかったのが印象的でした。ヒストリーと身体所見を非常に大事にする代わりに、特にウイルスやリケッチアなどの非細菌性の感染症ではほとんど必須とも言えるSerologyGeneticsの検査が殆ど行われていませんでした。国全体での医療費削減の動きということなのかもしれませんが、意識障害まできているような患者でも、数日待って自然経過を見る、というのはなかなか意外でした。このほかにも、A&Eで毎週行われるTeachingなどにも引き続き参加することができ、最後まで飽きさせない、バラエティに富んだ実習でした。

 

7.       現地の医学生との交流

例年、ペニンシュラ医学部では留学生をサポートしつつ、現地の医学生との交流も図るために、Student buddiesと呼ばれるボランティアを予め募ってくださっています。初日に案内をしてくれたSteven, 2週目にランチをしつつ講義の様子などを教えてくれたVictoria, Ritsuko, Elliot3週目になんと自宅(シェアハウス)に招待してくれて夕食もごちそうしてくれたAimmeはじめhouse buddiesたち、などなど、現地の医学生と様々な意見を交わす機会がありました。特に3週目に招待してくれたAimmeとそのbuddiesたちはとてもいい人たちでした。この日ごちそうしてもらったパイはイギリスに来てから最高の夕食でした(雰囲気も、味も!)。イギリスの医学生の就職状況や医療システムについて日本と比べながら語り合ったり、ウェールズ・アイルランドとイングランドがいまも自治独立を巡って張り合っている様子がわかったり、と貴重な経験もすることができました(ちなみにスコットランド出身の人はいませんでした)。

 

8.       感想・謝辞

今回の短期留学で得たもの、感じたことは多く、自分にとって生涯忘れることのできない貴重な経験となりました。一ヶ月間という限られた期間でしたが、一番の収穫は多様な患者背景と多様な疾患について幅広く触れることができたという点につきます。小児科病棟自体がそもそも先天性疾患、遺伝性疾患、感染症に腫瘍、思春期の精神的ケア、時に虐待疑いなど、極めて多様な患者を扱っていたうえに、感染症検査棟、GPクリニック、救急など追加で見学に行った分も合わせれば、この一ヶ月で医学の全領域を駆け抜けたと言っても過言ではないかもしれません。幸い、日本で総合診療の勉強をしていたおかげで、どの場所に行っても、それぞれのトピックに食いついて議論することができました。また、英国の医療システムや医師・看護師・コメディカルの役割分担などを実際に見て日本のそれと比較することで、日本の医療にも応用できるだろうと思われる事柄を発見するとともに、逆に日本の医療の優れている点について再発見もできたように思います。

大変多くのことを学ばせて頂いた、この貴重な機会を提供して頂いた医学教育振興財団の諸先生方並びに望月さん、Peninsula Medical SchoolKathrynさんはじめスタッフの方々に心から感謝致します。また、Royal Devon & Exeter病院において本実習のメインのホストとなって下さったDr. MabinDr. Parke、完全な押しかけであったにも関わらず快く受け入れて下さったSt Leonardss SurgeryDr. HardingNICUDr VenkataA&EDr Fordhamにも心から感謝いたします。

東京大学医学部長の宮園先生、教務委員会委員長の國土先生、国際交流室の丸山先生、中山さんには、財団への応募書類作成から留学まで、多くの段階で大変お世話になりました。渡航経費に関しては、財団からの資金援助に加えて、大坪修・鉄門フェローシップからも多大な援助を頂きました。大坪修先生に心から感謝申し上げます。そして留学費用をはじめ留学中もサポートしてくれた家族と友人にも感謝したく思います。

今後も多くの留学生が本プログラムを通して同じように素晴らしい経験ができるよう心から祈念いたしまして、結びとさせて頂きます。本当にありがとうございました。

 

 

9.       諸経費

宿泊費

\93,257

生活費

\35,883

交通費

\20,428

観光費

\6,625

通信費

\26,890

雑費

\2,399

\185,482

1ポンド= 184.705108円として計算しました。渡航費や海外旅行保険など、現地での滞在と関係がないものについては除外しました。