M3 Female

T〜V期:世界保健機関

 

20151月〜3月のWHOインターンシップを終えて

 

小児医療、社会医学の双方に興味があったため、Elective Clerkshipの3ヶ月を利用し、World Health Organization (WHO) 本部でインターンシップを行った。

準備は昨年の夏から始まった。6月頃、国際保健政策学教室の渋谷健司教授とお会いし、WHOでインターンシップをやりたいという旨をご相談した。幸運なことに、渋谷先生のご友人の一人が、WHOの母子保健部署にいらっしゃった。先生がメールにてその方とつないで下さり、まずは日程調整から始め、次にインターンシップの内容を話し合った。コンタクトを取ってからすぐに向こうの夏季休暇が始まったため、実際に正式な受け入れ可能書類が届いたのは11月頃であったが、早い段階でOKをもらえたことで、だいぶ余裕をもって準備を進めることができた。

まずインターンシップの内容については、渋谷先生からもアドバイスいただき、レビューを書く仕事を希望した。WHOの主な役割の一つとして、ガイドライン作成があるが、そのためには膨大な量の文献レビューが必要となってくる。WHOのインターンの仕事は部署によって様々であったが、多かれ少なかれ文献レビューのプロセスに関わっている人が多かったように思う。レビューの中でも、systematic reviewという、特有のプロトコールに則ったレビューはエビデンスが高いとされており、WHOでも頻繁に使用されている。そこで、Elective Clerkshipの準備として、日本でsystematic reviewの手法を学んだ。

渋谷先生にご相談し、8月中に先生の教室で開かれるsystematic reviewのミニコースに参加させていただいた。そこでは4日間で文献検索の基本的な手法、レビューの概念を学んだ。また、国立成育医療研究センターの大田えりか先生をご紹介いただき、data extraction の一部をお手伝いしながら、実際のsystematic reviewの制作過程について勉強した。渡航前に全てを学習し終えたわけではなかったが、基本的な概念を一通り学べたことは、インターンシップ中も大いに役立った。

それと同時に生活面の準備も進めた。WHO本部はスイスのジュネーヴにあるが、スイスは全般的に物価が高く、短期間借りられる部屋も数が限られるため、インターンは部屋探しに難渋するのが常である。滞在期間中に複数の部屋を移動する人や、最後まで部屋が決まらずホステル暮らしを続ける人も多い中で、幸運にも私は、2年前に渋谷先生の研究室からWHOでインターンシップをした方に当時の滞在先を紹介していただき、比較的物価の安いフランス内に部屋を借りることができた。ジュネーヴはスイスとフランスの国境沿いに位置しているため、違う国といってもWHOからバスで20分ほどの近さであった。毎日国境を超えての通勤するのは、陸続きのヨーロッパならではの経験であり、新鮮であった。

12月から渡航までは、保険や荷物の準備であっという間に過ぎた。そして110日、ジュネーヴへ向けて出国した。到着した時のジュネーヴは想像していたほど寒くなく、東京と同じ服装でまったく問題なかった(後で知ったのだが、その年は暖冬であったらしい)。

ジュネーヴのWHO headquarterにはいくつかのクラスターがある。私がいたのはFamily, Women and Children’s Healthというクラスターの下にある、Maternal, Newborn, Child and Adolescent health (通称MCA)という部署であった。WHOの中でもかなり大きな部署であり、その中でさらに3つのチームに分かれていた。私のsupervisorとなってくれていたDr. Cynthia Boschi-PintoEpidemiology, Monitoring and EvaluationのチームのEpidemiologistであったため、私もそのチームの配属となったが、実際にやっていた仕事としては、どちらかとしてはpolicy making寄りであったように思う。到着後、supervisorと相談し、”Strategies for improving paediatric quality of care at facility level”についてreviewを書く、という仕事が決まった。2000年に国連が宣言した”Millennium Development Goals (MDGs)”2015年を一つのゴールとして設定していたが、「ポストMDGs」の主要なトピックの一つとして、”Quality of care”が大きな関心を集めつつある。母子保健においてもそれは例外ではなく、各国において、特に中心国と呼ばれるような国々において、医療の質をどう高めていくか、議論の的であった。私のレビューは、コミュニティーや家庭でのケアではなく、医療機関において医療の質を向上させるためにどのような取り組みをすれば成果が得られるのか、成功例を集めその共通点を探る、というものであった。

11週間はあっという間であった。初めのうちはそもそもの概念を学ぶのに精一杯であった。””MDG”, “coverage”, “LMIC”など一つ一つの用語の正しい理解から始めた。次は、文献集めに苦戦した。特に今回のテーマがソフト面での議論が多く、論文を集める際にどのデータベースをあたればいいか、そのキーワードを使えば効果的に検索できるか、等々、今まで明確に意識してこなかった文献検索の手法を系統立てて学べたことは、今後どの分野に進んでも役に立つことと思う。何とか文献をかき集め、データをまとめると、次は英語で論文を書くのがまた一苦労であった。それらの過程すべてにおいて、supervisorや図書館の司書の方には何度も繰り返し相談させていただいた。

また、世界各国から来ているインターンにも大変刺激を受けた。WHOのインターンシップは無給であり、住居等の支援も用意されていない。その中で、特に中心国から来ているインターンは、国費の援助を受けているケースが多く、皆志し高く、短い期間でも何かを学ぼう、また自分がいたことで何かをよくしたい、という思いに満ちていた。インターンによるインターンのためのIntern Boardも活発に活動しており、私のいた3ヶ月間の間にも、中心国出身のインターンのためのファンドを立ち上げるため、PVを撮影し、募金集めのプロジェクトが立ち上がった。その行動力には目を覚まされる思いがした。

3月の第4週、M4の実習が始まる前日に、日本に帰国した。結局レビューを11週間で終わらせることはできなかったが、今後もメールやスカイプにてsupervisorとやりとりをし、完成を目指し書き進めていく。この3ヶ月が私の将来にどのような影響を及ぼしてくるのか、それは後から振り返らないとわからないが、間違いなくエレクラ前後で考え方はかなり変わった。この思いを忘れずに、残りの臨床実習も有意義に過ごしたい。