Elective Clerkship体験記              M3 Male

 

Washington University in St. Louis, Optical Radiology Laboratory

ORLで繰り広げられるケミカルバイオロジーを経験して

私は今回のElective Clerkshipの期間を利用してアメリカのミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学医学部のOptical Radiology Laboratoryという研究室で実験を行いました。今回の短期留学は医学部生体情報学教室の浦野先生、国際交流室の丸山先生を始めとする大学の先生方のお力添え、MD研究者育成プロブラム室からの奨学金、そして家族による支えをなくしては実現出来ないものであり、また、留学先では先生方、ポスドクの方に大変お世話になりました。心から御礼申し上げます。

今回のElective Clerkshipの目標として、アメリカで研究を行うイメージをつかむ、日本の研究室との比較、自分が思い描いていたアメリカの研究室のイメージと比較するということがありました。アメリカの医学生はundergraduateで1つ、あるいは2つの分野を専門にして研究にすでに取り組んでおり、「医学生」といってもすでに他分野のバックグラウンドを有しているのが特徴です。医学という領域にとらわれず、有機化学や数理科学、物理学、光学など様々な分野が一ヶ所に共存し、互いの垣根がより低い空間こそが大学というアカデミックな空間の特徴であり、そういう空間だからこそ実現できる研究があるはずであり、私はこのような大学だからこそできること、大学の役割という部分に非常に興味があり、純粋な医学研究というよりは、より融合分野に近い研究に足を踏み入れてきました。このような観点で、アメリカでは分野横断的な研究がどのように繰り広げられているかを実際に目でみることを目的に今回短期留学に望みました。

留学先の研究室Optical Radiology Laboratory(ORL)の教授は、参加を予定であったサンフランシスコで開催されるBIOSでポスター発表を行うセッションのChairをされていた先生でもあったので、とても親切に受け入れてくれました。ORLで開発されたCypateなどのオリジナルのNIRプローブをベースとして、システインを検出可能な蛍光プローブを、クリックケミストリーを使って合成し、今後のイメージング実験につなげるということを行いました。生体情報学教室では、有機合成から生体応用まで一人の人間が担って研究を進めていましたが、ORLでは有機合成分野、生体イメージング分野、画像解析分野で専門家がそれぞれいて、役割分担が細かくなされていました。イメージングにおいて、画像解析やプログラミング、またレーザー光やカメラを調節するエンジニアの研究者がいるということは非常に強みのように感じました。一つのプロセスが細分化されているというのはメリットでもありますが、一方で、各専門家が他の分野の専門家の担当分野をあまり理解できていないというデメリットも感じました。

今回私が携わったプロジェクトは大きなプロジェクトの一部であり、今後メールなどでその後の結果を共有してくれるとのことでした。今回の短期留学経験は、将来の留学を見据えた非常に意義のある充実したものとなりました。学生の間にみえる世界をなるべくひろくしたいという目標の一部を達成できたと心から感じております。この度このような機会を得ることができたことに、心より感謝申し上げます。

 

留学実現までの手続き

今回は学会をふくめて5週間という短期間で受け入れを許可して下さいましたが、最長で3ヶ月という期間で研究留学を快く受け入れてくれる研究室はそこまで多くありません。エレクラの期間を利用してアメリカの研究室に行きたい気持ちが強かったので、所属研究室の教授の浦野先生の推薦状を頂いて、5月頃からCV, Letterなどそろえて複数の研究室にアプライを開始したのですが、3つの研究室に「短期間」という理由で断られてしまいました。そこまでコネのないところに飛び込む成功確率は、短期間というのが最大のネックとなってかなり難しく、とても低いです。早めの行動をお勧めします。アプライ方法は単純で、CV, Letter of intent, recommendation letterの3セットを作成し、メールで添付して送るという形です。Washington University in St. Louisへのアプライも同様でしたが、浦野先生が事前にメールを一通打って下さり、受け入れ決定までは非常にスムーズでした。決定したのは10月頃であり、時期としては非常にぎりぎりになります。留学先の大学では、交換留学プログラム生として扱われるということで、J1 VISAの取得や登録手続き、予防接種の有無、TOEFLの成績などこなさなくてはいけないことが多数ありました。J1 VISAの取得には非常に時間がかかります。留学先の大学と郵便でやり取りをする必要もあるので、取得が年末年始に重なってしまうと思うように取得することが難しくなります。私の場合はまさにこのケースで、年末年始と手続きが重なってしまい、VISAの取得がアメリカ発に間に合わなくなってしまいました。ただ、実習は90日以内であり、ESTAでも十分渡米可能だったため、ESTAを取得しての短期留学ということになりました。本来ESTAは観光者のためのVisa免除プログラムなので、留学者が利用してはいけないことになります。私は留学先で困ることはありませんでしたが、安心のためにもJ1 VISAの取得を強くお勧めします。英語力についてはTOEFLのスコアを正式にETSから大学に送信することになります。こちらもすぐに届くというわけではないので、時間に余裕をもった手続き開始をお勧めします。TOEFLスコアを所持していない場合は、電話面接を行うことになります。研究室で実際にやりたいことについては、事前に打ち合わせても良いですが、実際に行ってさまざまな研究を少しの間見学して決定することも可能です。私の場合は、初日に教授と面談し、大枠を決めてから1日使って様々な実験を見学し、具体的に何をしたいか話し合いました。実験を開始する前に講習や簡単な試験を受ける必要があるので、到着して翌日から実験が出来るわけではありません。また動物を直接扱うには許可が出るまで一ヶ月は必要になります。とてもインターナショナルな空間なので、英語力には寛容です。テーマについてはこちらがいかに主張するか、何ができるのか伝えることがとても大切です。あまり謙遜せず、自信がそこまでなくてもやってみたいと伝え飛び込むことをお勧めします。

 

MD Anderson Cancer Center

世界をリードするがんチーム医療現場

テキサス州ヒューストンのテキサスメディカルセンターにあるMD Anderson Cancer Centerは世界的に有名ながんセンターのひとつであり、まずはその規模の巨大さに驚きました。42つの病院・施設があつまるメディカルセンターはひとつの街のようになっており、その中でもMD Anderson Cancer Centerは圧倒的な存在感を放っていました。このような施設が世界に存在しているということを知るということだけでも、その上ででは日本ではどのようなことができるか、など考え方に変化が生まれ、それだけでも大きな意味があったと感じています。

実習を行ったのは乳腺腫瘍内科の外来がメインであり、毎日異なる先生の外来を見学しました。MD Anderson Cancer Centerの特徴はレベルの高いがんチーム医療ということを勉強しておりましたが、現実は想像を超えたものでした。優秀な看護師、薬剤師、そして医師がコミュニケーションを中心につぎつぎと方針をディカッションで決定し、ハイテンポで診療がすすんでいく。患者からは圧倒的な信頼を得ており、診療のおわりにはドクターに抱きつく患者も多かったのが印象的でした。看護師がとる問診は最重要ポイントを押さえた上でプレゼンはユーモアにあふれ、単調さは一日の中から排除されてだれることなく、次々と診療がすすむ。医者の仕事は最低限に削減されており、カルテは音声入力。研究と臨床のバランスはコントロール可能で、臨床を週に1日、その他は研究をしているという先生もいらした。有名な病院のため見学者も多く、また留学プログラムで臨床研究を学びにきている方がとても多く、日本人も大きな割合を占めていました。MD Anderson Cancer Centerでのレジメンを取得したかったのですが、それに関してはすべてディカッションできまるということ。残念、と感じたが、コミュニケーション中心であるからこそこのチーム医療は成り立っているのだと思いました。実習後の時間を利用して、血液腫瘍内科、腫瘍外科の先生にもお会いし、キャリアパスなどのお話を伺うことが出来た。留学先で次々とひろがる人脈も、非常に刺激的でした。将来アメリカで臨床をするかどうか、それにたいする答えをだすこともひとつの目標でありましたが、その答えはまだ出ておりません。のこりわずかとなってしまった学生生活をいかに過ごすか、無駄に過ごすことのないように精進したいです。MD Anderson Cancer Centerへは去年も東大の学生が訪れており、後輩にも希望者が複数いることから、今後もこうした短期の留学を継続し、MD Anderson Cancer Centerと東大のつながりを深める第一歩とできれば非常に嬉しく思います。今回の留学は一つ上の先輩に直接紹介していただき実現したもので、大変お世話になった清水先輩、そして丸山先生、MD Anderson Cancer Centerの乳腺腫瘍内科の先生がたに心より御礼申し上げます。

 

留学実現までの手続き

MD Anderson Cancer Centerへは、一つ上の学年の清水さんが上野先生をご紹介くださり、非常にスムーズに手続き開始となりました。6月の時点で受け入れは決定しておりましたが、期間は未定ということでした。上野先生は出張の可能性があるということで、実際に受け入れの期間が決定したのは夏休み明けでした。さらに直前の12月に上野先生に出張の予定が入ってしまい、結果として3月の第一週だけの実習ということになり、少し短くなってしまったのが残念でした。直前になってこのように実習期間に変更を要求される場合も多いので、臨機応変に対応できるようにしておいた方が良いと思います。受け入れが決定するとすぐに資料作成の段階に入ります。コンタクトをとって下さる先生から記入が必要な書類が送信されてくるので、ワクチンのデータなどをそろえた上で提出します。VISAの要求などはされませんでした。MD Anderson Cancer Centerには日本人の先生、東大出身の先生がたくさんいらっしゃるので、事前にコンタクトを取ることで、外科の先生や血液腫瘍内科、腫瘍内科の先生などに直接お会いすることができました。今後MD Anderson Cancer Centerでの実習を希望される方は、是非さまざまな先生にコンタクトを取ってみて下さい。留学中にさらに先生を紹介頂いて輪は広がり、非常に充実した時間を過ごすことが出来ました。もしも、本当に興味のある方は、上野先生が主催するセミナーが日本でも多く開かれているので参加してみることをお勧めします。その他、何か知りたいことがある方はいつでもご連絡ください。