1ヶ月のロンドン留学

 

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【はじめに】

 私はロンドン大学セントジョージ校(St George’s, University of London; 以下SGUL)の腎臓内科(Renal Medicine)において、2016229日から324日までの4週間の間、実習する機会をいただきました。この体験記では、応募に至った経緯から留学に向けた準備、実際の実習の様子などを書きました。

 

【応募・準備】

志望理由

 留学に興味を持ち始めたのは大学1年生の時でした。当時所属していた部活にアメリカへ留学された先輩がいて、話を聞くうちに留学へ憧れを抱くようになりました。2年生の秋に医学科へ進学してからは、なるべく教科書を原書で読んだり、大学の医学英語のlectureに参加したりと、意識して英語の勉強をしていました。

 アメリカとイギリスのどちらへ留学しようか最後まで迷ったのですが、過去にこのプログラムに参加された先輩の話が魅力的だったことや、身体診察を重視した教育を受けてみたかったことなどの理由から、英国留学に応募することを決心しました。

 

学内選考

 2015年の6月に面接(日本語・英語)が行われ、その点数と学科での成績を元に選考が行われました。英国を志望したのは私含め2人だけで、無事2人とも推薦をいただけました。その後、国際交流室の方々にお手伝いいただいて、医学教育振興財団の本プログラムへの応募書類の作成やIELTSの受験など、必要な準備を進めてゆきました。

 

IELTS

 7月に2回、受験しました。初めて受けたとき、writingspeakingがとても難しく感じ、次の試験までの2週間でこれらを重点的に勉強しました。結果、これらの点数は伸びたのですが、他の2つ(readinglistening)の点数は下がってしまい、残念ながらoverallの点数は変わりませんでした。

 参考書には、Cambridge University Pressから出ているCambridge IELTS 10を使いました。過去問が5回分掲載されており、解答例も載っているためWritingの練習にとても役立ちました。また、Writingの勉強の一つとして、日頃から英英辞典を引くのはよいなと思います。

 

 

財団での面接

 面接は9月末の金曜日(平日)に行われました。待合室に着くとすでに何人かの応募者の方が座っていて、お互いに自己紹介をして自分の順番を待ちました。

 面接会場には、委員の先生方が8人ほど並んで座っていらっしゃいました。始めに1分間の自己アピール(英語)をしたのち、いくつかの質問に答えました。質問は英語と日本語の両方あり、日本が長寿な理由は何か、心血管疾患のリスクファクターは何か、といった社会医学的な内容が多く、少し戸惑いました。最後に実習で回っている科の患者さんをプレゼンして、全部で8分くらいで終了しました。一週間後、SGULへの派遣が決まったとの通知をいただくことができました。

 

<書類の準備>

 派遣が決まってから、必要な書類(犯罪経歴証明書、銀行残高証明書、戸籍抄本、Health Form, Tier4 Visaなど)をそろえるのに本当に苦労しました。なかでもHealth FormVisa2つが大変でした。

 Health Formは、時間に余裕を持って準備を進めるのが大切と思いました。抗体価の測定など、結果が出るだけで一週間かかる検査も多いです。また、過去のワクチン接種の記録が必要なので、母子手帳も手元に用意しておくのがよいと思います。

 Tier4 Visaについて。Health Formを含め必要書類を全て提出すると、先方の大学(SGUL)からConfirmation of Acceptance for StudiesCAS)という書類が届き、英国ビザを申請することができます。申請の大まかな流れは、

1.       visa4ukwebサイトでアカウントを作成

2.       オンライン上のApplication Formに記入し、Tier4 Student Visaを申し込む

3.       お金を払い、英国ビザセンター(東京と大阪の2箇所だけ)に必要書類を持って申請に行く

4.       ビザが交付される。

というように進んでいきました。12月上旬にCASが発行され、そこから1,2をスタートして、12月下旬に3のビザセンターに行きました。

 申請を進めるにあたり、わからないことがたくさん出てきました。UK Visas and Immigration (UKVI) webサイトで正しい情報を確認するのが最も確実なのですが、過去にビザを取った日本人の方のブログなども参考にして手続きを進めていきました。医学教育振興財団のwebページにも、ビザについての詳しい情報が載っています。また、一度どうしても困った時に、財団の方の勧めでUKVIに直接(https://ukvi-international.faq-help.com/)質問をしたことがあるのですが、すぐに的確な返事を返してくれました。

 

 ビザを取るまでは「本当に留学にたどり着けるのか?」という思いに押しつぶされそうで、精神的にとても辛かったです。1月の始めにビザが交付され、ようやくホッとできました。

 

渡英まで

 ビザが発行された後、110日頃に旅行代理店で航空券を購入しました。他にも海外旅行保険(AIU)への加入や寮費の支払いなどで慌ただしく過ごし、必要な準備が一通り終わったのは渡英の2週間前頃だったと思います。

 留学に向けた勉強としては、Renal Medicineでの実習だったため、National Kidney Foundationから出ているPrimer on Kidney Diseasesという教科書を読んでノートにまとめていました。

 実習前の土曜日(2/27)に渡英しました。入国審査はビザとCASとを見せ、渡英の目的(“To study medicine.”)を伝えただけでスムーズに終わりました。空港から寮までは地下鉄を乗り継いで行き、約2時間くらいかかりました。特に最後、最寄り駅(Tooting Broadway)から寮までスーツケースを引いて20分ほど歩くのは大変で、バスを使えばよかったと思いました。

 

【現地での実習】

実習初日

 9時からのオリエンテーションに合わせて大学へ行きました。Student Centreで必要書類に記入した後、少し離れた場所にあるOccupational HealthImmunity checkを受けました。簡単な医療面接を受け、事前に送ったHealth Formの確認をして、BCG接種痕を見せて終わりでした。再びStudent Centreで病院のIDカードを作っていただき、10時頃には手続きが終わりました。

 Renal Medicineの病棟へ行き、Professor David Oliveiraに挨拶をしました。とてもフレンドリーに声をかけてくださって、ホッとしたのを覚えています。3人の学生(4年生2人と5年生1人)とも自己紹介をして、そのまま回診に付いていきました。途中で抜けて学生たちとX-ray meetingに出て、お昼を一緒に食べて、図書館へ案内してもらって初日は終了でした。

 

 英国の医学部は5年で卒業する制度のため、卒業まであと1年の (pre-final yearと呼びます) 私は、4年生の学生たちと同じスケジュール(以下)で実習することになりました。

 

Monday

 

9:00-11:00am

Ward clerking

11:30am-12:30pm

X-ray meeting

Tuesday

 

10:00am-12:00 pm

Ward clerking

12:30pm-1:45pm

Student Grand Round

2:00pm-4:00pm

Consultant teaching

Wednesday

 

9:00-10:00am

Dr Banerjee teaching

午後

休み

Thursday

 

AM

Ward clerking or Transplant clinic

12:45-1:45pm

Medical Grand Round

2:00-5:00pm

Outpatients-Prof D Oliveira

Friday

 

9:00-11:00am

Dr Banerjee clinic

11:00am-12:00pm

Prof D Oliveira teaching

 

以下、実習内容を項目毎に書いてゆきます。

 

 

Ward clerking

 病棟の患者さんに医療面接と身体診察を行うことです。この大学では、医学生は病棟のどの患者さんに診察を行っても良いことになっています。とはいえ始めはどの患者さんにclerkingすればいいのかわからないので、病棟にいる先生に「clerkingをしたい」と伝え、状態の比較的安定している方を紹介していただいてからclerkingするようにしていました。

 まず自己紹介をして、主訴・現病歴・既往歴・家族歴etcを順に聞いてゆき、必要があれば身体診察もさせていただきます。その後、患者さんの話と取った所見を整理して、先生に頼んで(“Can I present you a patient?”)プレゼンを聞いていただき、フィードバックを受ける、という実習でした。現地の学生に合わせて、だいたい週に23名の患者さんをclerkingしていました。

 一度、2年生の学生が病棟に来たことがありました。患者さんと話をする練習に来たとのことで、そんな早い時期から病棟に出るのか、とびっくりしてしまいました。

 

Teaching

 日本で言うクルズスにあたります。患者さんのベッドサイドで、先生の指導を受けながら身体診察を取るというものでした。Dr. Jones Dr. Banerjeeというconsultantの先生、そして教授であるDr. Oliveira3人の先生からteachingを受けました。

 一番印象的だったのは、Professor Oliveirateachingで、所見の取り方だけでなく、異常所見があった場合の鑑別やその病態生理などを教えていただきました。手から系統的に診察してゆき、例えば循環器の診察では、まず手を触って冷感の有無を確かめ、ばち指(clubbing)や感染性心内膜炎の徴候(Osler’s node, Janeway lesion, splinter hemorrhage)がないかを確認し、手首で脈を診て、というように進めて行きます。その合間合間に「ばち指をきたす循環器疾患は?」「脈は何に注意して診るの?」などと質問が飛んできて、常に緊張感を持って参加することができました。

 どのteachingも、身体診察を学ぶ上で非常にいい勉強になりました。時間中には理解できないことも多く、終わった後に図書館で教科書(Macleod's Clinical Examination)を読んで復習していました。

 

Outpatient clinic

 外来の見学です。Dr. BanerjeeProfessor Oliveiraの外来を見学しましたが、お二人とも患者さんに対してとてもはっきりと(時に厳しく)病状を説明されていたのが印象的でした。

 糖尿病性腎症の患者さんが一番多かったです。減塩をとても重視されているようで、血圧のコントロールが悪い方に対して “No salt.” “Table salt must be hidden.” などと指導されていました。

 一度だけ、Transplantation clnicも見学しました。腎移植後の患者さんを定期的にフォローする外来です。免疫抑制剤の副作用に皮膚がんがあるらしく、日焼け止め(sun cream)を塗っているかどうか、一人一人に尋ねていらっしゃいました。

 実際にやったこととしては、患者さんを呼びに行ったり血圧を測ったりして、診察と診察の間に先生に解説をしていただく、という内容でした。患者さんに医療面接をする機会は残念ながらありませんでした。

 

X-ray meeting

 病棟にいる患者さんの画像を読影して、放射線科の先生に指導していただく、という実習でした。胸部X線画像を読むことが多く、患者さんの名前・年齢・性別を言ったあと、画像の状態(X線の透過は適切か)を評価し、腹部、胸郭、縦隔、肺野・・・とプレゼンを進めてゆきます。一度自分でもやってみたのですが、難しかったです。

 

その他の実習

 毎朝、9時過ぎから行われる病棟回診に参加しました。病棟の廊下にあるホワイトボードに患者さんの名前の一覧があって、その前に集まって(立ったまま)、若い医師や看護師たちが上級医(consultant)に各患者さんの状態を報告します。一通り終わると患者さんの元へ行き、一人ずつ診察をしてゆきました。

 teachingなどのイベントが無いときにはこの回診にずっと付いていきました。全て終わるのが午後になってしまうことも何度かあり、先生方(特に若い先生)はとてもお忙しそうでした。

 腎生検も一度見学しました。準備から後片付けまで、consultantの先生が一人で全てされていてびっくりしました。

 

実習中の服装について

 白衣は着ません。黒のスラックスにシャツを着て、聴診器を首から提げて、メモ帳はポケットに入れて実習していました。ポケットサイズの教科書は持たなかったのですが、実習中は先生の話をメモするのに精一杯で、持っていても調べる時間はなかったように思います。実習後に図書館に行って疑問点を解決する、というやり方で勉強していました。

 

 

【現地での生活】

お金

 現金で300ポンド(約5万円)を持っていきました。カード類は無くしたときのことも考えて、クレジットカード2枚、デビットカード2枚を用意しましたが、使ったのはクレジットカード1枚だけでした。ロンドンはほとんどのお店でカードを使えます。現金しか使えなかったのは、大学のカフェテリア(13~5ポンド)と寮の洗濯機(洗濯機2.5ポンド、乾燥機1.2ポンド)くらいでした。

 

気温

 思ったよりも寒く、分厚いダウンコートを着ていってちょうどよかったです。1ヶ月の滞在中、気温に大きな変化はなく、だいたい最高気温10℃、最低気温3-5℃くらいでした。ロンドンの気温はBBCwebサイト(http://www.bbc.com/weather/2643743)で知ることができます。私は出発前にこまめにチェックしていました。

 

交通

 ロンドンの地下鉄は思ったよりも高く、Tootingから市内へ出るだけで往復くらいかかりました。また、ストライキ(tube strike)もしばしばあり、注意が必要です。帰国の日がちょうどストライキで、Heathrow空港への地下鉄(Piccadilly Line)がストップしてしまい、仕方なくHeathrow expressという空港への特急列車を利用しました。値段は20£と高かったのですが車内は非常に快適で、空港へ楽にアクセスできました。

 

 非常に綺麗な寮で、快適な生活を送ることが出来ました。セキュリティはしっかりしており、また、寮の入り口には24時間スタッフの方が常駐されているため、いつトラブルが起こっても相談することが出来ますし、好きな時刻にチェックイン・チェックアウトすることが可能です。

 部屋の設備としては、机・ベッド・クローゼット・洗面台・シャワー・トイレ・ヒーター等が付いていました。引き出しもたくさんあり収納には困りません。暖房も付いているのですが、一定時間経つと切れてしまうため夜中に寒くて目が覚めることがありました。途中からフリースなど着込んで寝るようにしていました(私が寒がりなだけかもしれませんが・・・)。

 キッチンとリビングルームは6人のフラットメイト(うち4人が財団の留学生でした)で共用です。基本的な調理器具(ナイフ、お皿、まな板、IHヒーター、フライパン、オーブン、電子レンジetc)はそろっていて、電気ケトルもありお湯をわかせます。調理台や冷蔵庫(大きいのが2つ)、収納棚(かなりスペースがあります)などが付属していました。使い勝手はとてもよく、特にオーブンが使えるのがよかったです。キッチンの掃除は週に1度、係の方が来てやってくださいました。

 

食事

 昼は大学のカフェテリア(ポテトやチキンなど)で済ませて、夜はほぼ毎食自炊をしていました。Tooting Broadwayの駅のすぐそばにSainsbury’sというスーパーがあり、必要な食材はなんでもそろえることができます。ロンドンのスーパーではレジ袋にお金を取られるため、マイバッグを持参していくようにしていました。

 日本からはうどん(乾麺)やカレーのルー、調味料(だしの素、コンソメ、醤油)を持って行きました。野菜や肉を買ってしまえば、自分の慣れた味付けで料理ができるのでよかったです。また、うどんは風邪を引いてしまったときにとても重宝しました。

 

持ち物

 衣類(5セットずつ)、タオル、薬類、洗面用具、スリッパ、ハンガー、ドライヤーなどを持って行きました。観光用のガイドブックは、1冊あると何かと便利でした。

 

【さいごに】

 今回の留学は初めての海外長期滞在で、慣れない環境や英語でのコミュニケーションに苦労することも多かったです。特に英語は、自分の言いたいことを表現するのに時間がかかってしまい、会話のスピードに付いていけずに落ち込むこともしばしばありました。そんな中、現地の学生達や先生方はいつも優しく声をかけてくれて、おかげで少しずつ、自分のペースで会話ができるようになりました。

 また、一緒にこのプログラムで日本から留学した3人には、とてもお世話になりました。観光に行ったり、寮でゆっくり話したりと、一ヶ月の間楽しい時間を過ごすことができ、3人との寮生活はとても良い思い出です。

 

 今回の留学に際し、たくさんの方々に助けていただきました。医学英語のHolmes先生には、3年生の時から発音や英会話を指導していただきました。東京大学医学部国際交流室の丸山先生、中川様には本プログラムへの応募から渡英までの間、書類の準備などを助けていただきました。そして、医学教育振興財団の委員の先生方、望月様、子安様には、このような貴重な機会を頂いたと共に、準備の際に様々なサポートをしていただき、大変お世話になりました。また、留学資金につきましては、財団から奨学金をいただいた他、大坪修・鉄門フェローシップからも多大な援助をいただきました。どうもありがとうございます。

 

 最後になりましたが、今回、留学する機会を頂き本当にどうもありがとうございました。この留学で学んだことを、今後に活かしてゆこうと思います。