Elective Clerkship @ Gothenburg University

報告レポート

M3 Female

 

▶はじめに

この度は、118日〜25日で、Gothenburg Universityの産婦人科で実習させていただきました。市内には3つの附属病院 (Ostra, Sahlgrenska, Molndal)があるのですが、産婦人科は3つに分散していたため3カ所全部に行きました。今後スウェーデンでの実習を希望する学生に向けて、学んだことや実際の実習の雰囲気を報告したいと思います。

私がスウェーデンを選んだのは主に二つの理由です。

@    福祉国家として有名なスウェーデンの医療や社会を実際に見てみたい 

A    私はアメリカで育ったので、アメリカ以外かつ非英語圏に行って通じない言語で暮らす感覚を味わいたかった

実際に行ってみた感想として、目標は両方とも達成できて本当に良かったと思います。医療制度についてかなり詳しく知れましたし、他の(医学ではない)留学生の友達も沢山出来ました。ぜひ以下の◎ポイント、×ポイントを見てスウェーデンの実習を検討してみてください^^

 

  なかなか行く機会のないスウェーデンという国で医療について学べる

  全員英語が通じるので言語で困ることはない。

  実習は基本的に患者さんとの会話はスウェーデン語ですが、先生が大体通訳してくれます。

  イエテボリ大学は海外からの留学生が多いことで有名で、色々な国の友達が出来ます。

  医師のQOLが高いので実習も夜遅くまでということはなく、スウェーデンでの生活自体も楽しめます。

  医学自体は日本と大差ないように感じました。

  大学がStudent Buddyという案内役の医学生を紹介してくれるので、わからないことは聞けたり、街案内してもらったり、不自由ありません。

 

× 自分以外の人との会話はスウェーデン語なわけで、その分吸収できるものは英語圏や日本で実習したより減ります。

×実習内容は言語が出来ないのもあり、見学が多めです。がっつり朝から晩まで厳しく実習したいという人には向かないと思います。

×アメリカほど実習が厳しくないとはいえ、先生方はもちろん英語なので医学英語は必須です。

×物価が高い

×現地の学生は同時にローテートしていないので、自ら学生コミュニティに入らないと友達は増えません。、(科によるかもしれません)

 

▶受入決定までの流れ

 

6月にElective Clerkship学内選考の面接が他の大学と同様にあり、推薦が決定します。その後は秋頃まで手続き関連はすることがないので、医学英語の勉強をしておくと良いと思います。10月になるとイエテボリ大学のホームページからオンラインで申込フォームが入力できるようになります。ここで希望する科の選択をするのですが、過去の先輩は循環器・神経・消化器内科だけだと伺っていたものの、入力欄が “Specialties you are interested in”と書いてあったので私はここが受け入れ先になるとは思わず興味あるObstetrics/GynecologyPediatricsを書きました。と順調に進んでいたのですが、ここで家手彫り大学から国際交流プログラムの再編成を行っているので今年は受入出来ませんとのメールが来ました。個人的には同時にアメリカの応募も進めていたものの、スウェーデンにどうしても行きたかったので丸山先生に相談したところ、学術協定がまだ有効な上に夏にイエテボリの学生を受け入れたので、掛け合ってみてくださる、との事で、先方の事務から「なんとか受入を見つけて上げます」と返事がいただけました。最終的に。なんと幸運なことに前例がない産婦人科で実習を調整していただけた次第です。決定は11月末(約1ヶ月半前)でした。その後にStudent Buddyが紹介されて、私の場合は去年の夏に東大に留学しにきていた学生だったため既に知り合いで、facebookでやり取りして色々と教えてもらいました。

 

 

▶現地での生活

 

  航空券:私はヘルシンキ経由で直接イエテボリLandvetter空港まで飛びましたが、ストックホルムからも電車で3時間程度です。

  寮:寮の申請は期限があるので受入が決定していなくても先に申請しておくのがオススメです。後からキャンセル可能そうでした。場所が何カ所かあって私はRosendalというOstra病院から15分ほどの寮でした。実習開始の2日前からしか寮に入れなかったので、その日に到着して入居しました。というのも、こちらの新学期が1月から始まるようで、今年は116日に他の学部の留学生も全員到着するArrival Dayような日程でした。

  寮までの移動:上記の通り、Arrival Dayだったため大学側が数時間毎に空港までバスで迎え手に来てくれました。が、私は微妙に予定していたバスに遅れたのでStudent Buddyに連絡してバスで中央駅まで行きました。そこでBuddyと合流し、寮に案内してもらいました。

  寮での生活:留学生全体、さらには寮だけのメンバーのfacebookグループがあり、そこで困ったことがあればお互い相談したり、寮の共用キッチンで皆で持ち寄りパーティーをしたりしました。

  市内の移動:バスやトラムが主な交通手段となると思います。30日間乗り放題のパスがあるのでそれを購入するのが便利なのではないでしょうか。

  物価:外食(特にちゃんとしたレストラン)はかなり高いですが、スーパーの食材や日用品は大差は感じませんでした。

  食生活:外食が高い上に平日の夜は実習で疲れて出かける元気があまりなかったので、かなり自炊しました。日本からインスタント食品を持っていくのも便利だと思います。困ったら中央駅側にあるNordstanというショッピングセンターの中にアジアンフードマーケットがあります。カフェは日本より少し高いかな、といった印象でした。

  友達:Student Buddyの他は、上記のfacebokグループで色々な国の留学生と知り合いました。

  fika:コーヒータイム・お茶のことをスウェーデン語でfikaと呼びます。病院内でも午前に1回はfikaがあり、先生同士でおしゃべりしたり患者さんの相談をしながらコーヒーを飲みます。カプチーノやラテも作れるようなハイレベルのコーヒーマシンが院内のいたるところに設置してあって、いつでも飲めます。また、病院内にはキッチンが充実していて、サンドイッチなども作り放題です。友達と会うときも、ディナーや飲みにいくのは高いからか、午後にfikaしながらおしゃべりすることが多かったです。

 

▶実習

3つの附属病院を回りました。

Ostra:合併症のある妊娠、分娩、帝王切開エコー専門外来、産科救急外来、中絶外来、外科的中絶のオペ、

Sahlgrenska: 婦人科救急、婦人科腫瘍、リプロ

Molndal; 正常分娩

という風に分かれていて、1週目〜2週目3日はOstra2週目4,5日目はSahlgrenska、3週目はMolndalで実習しました。担当の先生も色々と

 

1週目~2週間目前半はOstra病院の婦人科を主に回りました。スウェーデンでは妊娠中絶が当たり前のように実施されているので、吸引による人工妊娠中絶、中絶専門外来などを見学したのが印象的です。他にもオペは膀胱膣瘻や直腸膣瘻の修復、複雑妊娠の帝王切開などを見ました。外来は婦人科外来、産科外来両方を見学し、エコーや内診などをさせてもらいました。産科外来の中ではエコー専門医による外来があり、羊水量の異常、双胎妊娠、胎児発育不全、先天性奇形の発見など特殊な例で使用されていたのがとても面白かったです。2週目後半はSahgrenskaにて婦人科救急の見学でした。妊娠初期の妊婦、妊娠していない女性、が主に来院しました。不正性器出血、腹痛、異常帯下、などが主な主訴でしたが、年齢、妊娠しているか否か、既往歴、などを加味すると同じ主訴でも色々な疾患に分類されるのが見ていてとても勉強になりました。妊婦の腹痛といっても妊娠とは関係なく虫垂炎や腸炎だった患者さんなど、婦人科以外の救急に続いて送ることになった女性もいました。最後の週はMolndalの正常分娩病棟でした。分娩前後の管理法、分娩の経過など、最初から最後まで体験することができたのがとても勉強になりました。スウェーデンでは助産師の役割が大きいので、医師ではなく助産師の仕事について回る日も作っていただいたのは良かったです。一番最後の週で大きかったのは帝王切開に第一助手で入れたことです。毎日数件あったので、先生に指導していただきながら実際に手を動かして参加させてもらい、手術の流れ、手技、その背景にある理論など、一通り学べたと思います。

 実習を通していえることは、もちろんスウェーデン語なので苦労することもあるということです。しかし、先生方は英語がペラペラで、聞けば教えてくださるし、優しい先生はカルテまで訳してくださるし、予想していたほどのハードルはありませんでした。医学英語をしっかり勉強していけば十分だと思います。もちろん、先生方のスウェーデン語の雑談にはついていけず、寂しい想いをすることもありましたが、全体として言語の壁があるにしてはかなり学べたと思います。また、みなさん学生のお世話をしっかりしてくださって、放っておかれていない?大丈夫?一緒に見に来る?など常に声掛けてくださったのがとても嬉しかったです。実習の時間は真面目に医学と向き合いながらも、fikaの時間はしっかり取って一緒に雑談をしたり患者さんについて議論したり、オンとオフの切り替えがしっかりしていました。

 

 スウェーデンで実習をするというのは中々出来ない経験なので、行って本当に良かったなと思っています。アメリカと比べて将来北欧で働きたいなどと思う人は少ないかと思いますが、新たな環境で新しいことにチャレンジしてみるのはとても意味があると思いますのでぜひ考えてみてください。この体験記が今後エレクラで海外を目指す学生の参考になりますよう願っています。更に質問などがありましたら気軽にご連絡ください。

 

 最後になりましたが、このような機会をくださった丸山先生をはじめとする国際交流室の皆様、奨学金で支援してくださった大坪先生、手続きを手伝ってくださった教務係のみなさま、現地で支えてくださった全ての皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。

 

 以下は個人的に面白かったスウェーデンの医療現場、社会制度に

関する考察です。興味ある方は参考にしてみてください。

 

 

 

 

市全体、国全体を通して病院の機能分化

Göteborg大学附属病院は市内に3カ所あって、それぞれの病院で取り扱っている科が違います。3カ所全部を合わせて全ての科や受けられる治療がコンプリートする感じです。産婦人科の中でも正常妊娠はここ、ハイリスク妊娠はここ、婦人科腫瘍はここ、リプロはここ、救急はここ、など細かく別れていました。産婦人科の医師は3つの病院を掛け持ちして回るので、色々な施設で色々な部署で診療することになります。また、国全体でも、高度医療は分野毎に取り扱う都市を決めていて、そこに限定して設備と医師を集めているそうです。必要な治療を受けるためにヘリ輸送される患者さんも多いそうです。

 

救急の制度

科毎に救急が分かれています。内科、外科、整形外科、産婦人科に関しては産科と婦人科で病院まで分かれていました。確実にその分野の医師がいて見てもらえるというメリットがあるものの、間違った科の救急に来てしまったら少し面倒ですし鑑別診断を否定するために別の施設までわざわざ出向いて診察してもらうこともあるみたいです。ex 右下腹部痛で来た患者さんは婦人科の救急で婦人科疾患を見てもらい、外科の救急で虫垂炎を見てもらう、というわけで2カ所に行かなければいけなくなります。

 

待ち時間の長さ

待ち時間より、待機時間といった方が良いかもしれません。特に緊急性の低い症状だと待機させられることが多く、プライベートな保険だと優先されます。ゼミのスウェーデンのケースでもありましたよね!)例えばオペだと、オペという治療方針を決定した医師が申請するのですが、そこに緊急性を3段階で評価する欄があり、一番低いのだと3ヶ月ほど待たされるそうです。他の科でも慢性疾患で待機しているうちに悪化したというような話を聞きました。他にも、病気とまで行かずとも、風邪程度の症状だと絶対に病院で見てもらえないので、市販の薬飲んで寝てるだけだよ〜とスウェーデンの学生は笑っていました。診察室にさえ入れたら良い治療を受けられるものの、患者さんにとっては病院に行って診てもらうハードルが高いという印象を受けました。

 

 

支払い制度

基本的に医療費はどんな治療を受けても無料です。救急受診するときは受診費、入院するときは食費は払うそうですが、治療や検査自体に払うことはありません。というわけで、医者にとっては何かするだけお金がかかる訳で、スウェーデンは過小医療な印象を受けました。実際カンファでもある高額医療機器をどのような患者さんのオペなら使っていいか、みたいな議論が盛んに行われていました。現地の患者さんはこれが普通なので何も思っていないと思いますが、海外から引っ越してきたばかりの患者さんが「本当に何も検査してくれない」と嘆いていたのが印象的です。

 

助産師の役割

産婦人科では助産師にかなりの権限が与えられています。あらゆるところに助産師健診をしてもらえるクリニックが配置されていて、妊娠するとそこに通うようになります。なにも異常がない患者さんだと1820週の器官形成終了時に異常がないかエコー検査があるそうなのですが、それ以外は定期的に助産師にチェックしてもらうだけで医師と会うことはないそうです。途中で糖尿病や高血圧などリスク因子があれば医師が介入しますが、それすら医師が治療方針の指示を出せば経過は助産師がフォローするみたいです。出産自体も問題なければそのときすら医師には会いません。ある意味、上記支払制度と関連して、医療費を抑える一策かもしれませんね。

こちらの医学生は、正常分娩と助産師の仕事について知るために3日まず助産師と回るところから産婦人科の実習は始まるそうです。

 

医師の働き方

QOL高すぎて驚きました。勤務時間は基本的に8時から4時半。外科は大変だから、という理由で金曜日は2時半まで。外来の枠は30分(他の科は違うかもしれませんが)で例えば午前だと5人のみ。間にコーヒー休憩有り。昼休みは出来るだけ全員同じ時間に取って一緒に食べる。でもこの休憩時間で治療方針とか話し合うというメリットもあるのは良いな、と思いました。子供がいらっしゃる女医さんもたくさんいて、働きやすそうな環境でした。しっかり医師が帰宅する分夜は別に夜勤の医師がいて、夕方と朝に日勤の医師との引き継ぎが行われます。夜勤の医師は1週間(うち4日)ずっと連日夜勤するそうです。ただ、日本人からしたら、出産の途中で4時半を迎えると、「勤務時間終わるから帰ります」と帰られちゃうのはちょっと寂しいなと驚いたりしました。

 

産休・育児

まず、産科の健診は昼間なのに半分くらい旦那さん付き添いあり、出産前後は病室にベッドが2つあって夫も泊まり込み、出産時には必ず隣にいる、というのに驚きました。出産で旦那さんがいなかったのは帝王切開1件で代わりにお母様が来てた患者さんだけでした。と思って色々と聞いてみると、育児休暇は夫婦合わせて14ヶ月、どのようにわけても良いけどそのうち3ヶ月は夫しか取得できない、二人で半分の7ヶ月ずつ取れば助成金が出る、というような制度だそうです。お世話してもらった先生も少し前に産休から戻ってきて、今は旦那さんが休んで子供の面倒を見ている、とのこと。社会全体としても男性側が育休取らないと、「ダメな夫」とみなされる風潮がここ10年で出来てきたそうです。

育休などの制度やマインドセット以前に、そもそも普段からフレキシブルでQOL高い働き方だからこそ男女ともに家庭と仕事が両立できる部分が大きそうですが。。。日本も見習えるところは取り入れられたらな、と思いました。

 

英語教育

出会う人みんなが完璧な英語が喋れました。イギリス系・アメリカ系の違いはあったものの、誰とでも話すのに困ることは全くありませんでした。あまりにも全員が全員喋れるのでどのような教育なのか聞いてみると、学校の英語教育は日本と大差なさそうだったのですが、どうやらテレビが英語で流れていることが大きいそうです。スウェーデンのテレビ番組のかなりの数は英語にスウェーデン語の字幕で、吹き替えはあまりされていないため、小さい頃から英語を耳にして育ち自然と英語が話せるようになる、とのことでした。日本のテレビも海外ドラマ・映画は吹き替えなしにしてもいいかもしれませんね。吹き替えの喋り方不自然ですし(笑)ある先生からテレビ業界の友達にぜひ勧めてみたらどうかと言われたので、これを読んでいる方がいたらぜひ!!!

ただし、どうやら教師の社会的地位が高くないため学校の質が低下しているそうです。皮肉なことに最近の小学生はスウェーデン語の読み書きはイマイチなのに、みんな英語だけはペラペラだ・・・とおっしゃる方もいました。