University of Gothenburg, Sahlgrenska Academy, Gastroenterology

M3 male

 

28日から36日までスウェーデンのイエテボリ大学医学部(Sahlgrenska Academy)消化器内科で実習しました。実習前は不安でいっぱいでしたが、振り返ってみるとかけがえのない経験をさせていただいたと思っております。来年以降にイエテボリ大学留学を考えている方々の一助になれば幸いです。

 

【留学前】

 そもそもスウェーデンを留学先として選んだのは、「福祉が充実している」と言われている北欧の医療を一度見てみたいということがありました。英会話能力に自信がない私にとって英語圏での実習はハードルの高いものであったこと、冬の北欧に行く機会はめったにないであろうこと、なども大きな志望動機でした。

今年度は611日に国際交流室の面接がありました。事前に実習班のメンバーで模擬面接を行ったことで、英語のみならず日本語面接も改善できたように思います。数日後に派遣決定の通知をいただきました。

応募手続きや寮の応募を行うのは11月になってからです。東大からの受け入れはできない、と一旦は言われるなど手続きに時間がかかり、実際に受け入れが確定したのは12月初旬でした。その後になって航空券の手配を行いました。東京からイエテボリに向かう場合、乗継地点としてはヘルシンキ(FinAir)やコペンハーゲン(SAS)、ロンドンやパリなどがあります。ヘルシンキ乗換が最も短時間ですが、コペンハーゲンの場合万が一乗継に失敗しても電車でイエテボリに入ることができます。ワクチンに関しては、日本で改めて接種するものはなく、現地入りしてからMRSAの検査を行うと言われたのみでした(これも実際には行われませんでした)

【寮】

留学応募時に同時に寮も予約しました。Housing ServiceHPでは寮の名前しか表示されていませんが、イエテボリ大学のHPから探すと各寮の立地や内観などが確認できます。住んでいたRosendalというところは市の中心部からやや外れていて、Ostra病院に通う場合は便利ですが、Sahlgrenska病院まではバスを乗り継いで45分ほどかかりました。寮内に21時まで営業しているスーパーがあり、食材は容易に調達できました。

入寮した時点ではマットレスはあるものの、シーツや毛布はまったくありませんでした。友人の話を聞くと家具が一式揃っていた部屋もある一方で、このように全くなかった部屋もあるようです。夕方以降にヨーテボリに着く場合はホテルを予約し、翌日午前中に入寮する形の方が安全かと思います。洗濯機の使用方法やごみ出し場所などはわかりづらいので、先人に教えてもらうことが多々ありました。退寮後のチェックが思ったより厳しく、冷凍庫に霜がついていたり多少の埃が残っていたりしただけで「清掃料金を後で請求する」とのメールが来ました(実際に請求書はまだ来ていませんが・・・)

【実習】

 レジデントの先生が1人ついてくださり、その先生について回る時間がほとんどでした。

 2週間ほどは病棟で過ごしました。癌はすべて外科か腫瘍内科で担当すること、また国全体の医療費抑制政策のせいか、スウェーデン第2の都市の中心病院にもかかわらず、消化器内科入院患者は10人もいませんでした。ほとんどがアルコール性肝硬変末期か炎症性腸疾患の患者さんでした。回診の後には肝生検や腹水穿刺を見学したり、同時に回っている医学生のクルズスや試問に参加したりしていました。

 1週間は内視鏡室に配属されました。「日本の内視鏡技術は世界一だから、僕たちのを見ても何も勉強にならないんじゃないかな」と笑われながらも、検査の進め方や所見を説明していただきました。緯度が高いためか、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の患者さんが多く、特異的な内視鏡所見を実際に見ることができました。

指導医の先生が一時ERに異動されていたため、そちらもお邪魔しました。さらに腎移植の手術に手洗いして入れていただいたり、検査部で食道内圧測定検査を見学したり、外来にお邪魔したりとさまざまな部門に伺うことができました。

【医学教育】

医学教育システムは東大とかなり異なります。まず臨床科の系統講義を行わないまま、日本でいうところの4年生から病院実習が始まります。さらに各内科とも1週間しか実習期間がありません。午前中は外来や病棟、内視鏡室を見学し、午後は診断学を重視した浅く広いクルズスが詰まっています。そのためカルテを書いたり論文を読んだりといった課題はなく、病棟でも2~3人ほどで1人の患者さんの身体診察を行って終わり、という形でした。試問もレポートを提出して質問されるというものではなく、あらかじめ提示されている症例リストに関して、何の疾患を疑ってどのような検査を進めるか、を問われるものでした。

学生は各内科を1週間で学び終わらなくてはならないので、毎日勉強に追われてとても大変だとのことでした。それでも問診や身体診察、ディスカッションで見せる積極性には驚かされるばかりでした。試問前のグループ学習にも呼んでもらい、「試問中困ったら助けてね!」と言われましたが、むしろこちらが議論についていくのがやっとという情けない有様でした。

【福祉】

スウェーデンは高福祉国家とよく言われます。確かに労働条件で見るとQOLが非常に重視されており、仕事終わりは平日で17時、金曜日は13時くらい、土日は完全オフ、となっています。もちろん当直の先生方もいるのですが、当直するとその2倍の時間休みを取れるシステムになっています。また体調不良や家族の用事のために仕事を休むのもしごく当然のことと思われています。これは父親についても同様で、出産には父親も当然立ち会う他、両親合わせて14か月取ることができる育児休暇についても、7か月ずつ分けあうとボーナスが出る一方で、全く取らない父親は親とみなされない、など男女を差別しない文化が浸透していました。

 一方で医療に関しては必ずしも高福祉とは言えないのかもしれないと感じました。すべての医療が税金で賄われるために、医療費が膨大なものになってしまいます。また全国的に看護師の数が不足しており、十分な病床数を確保できていません。そのためできるだけ少ない検査、治療で済まそうとする「過小医療」になりがちだそうです。現にまだ発熱していて血液検査上も炎症が持続している患者さんに関しても、ピークは越えていて今後抗生剤を変更することはないためベッドを空けて退院してもらう、という姿を見ました。アメリカでは保険会社が医療水準を決め、保険が許す限りにおいてはとりあえず全ての検査をオーダーしてから臨床推論を進める「過剰医療」に傾きがちと聞きました(おそらく日本はその中間なのだと推察します)

【生活】

 イエテボリはスウェーデン第2の都市ですが、こじんまりとした小さな町です。最近中東からの移民が増えているとのことですが、治安も良く生活面で不安を感じることはありません。

 着いたらすぐにすべきことはネット環境整備とバス定期を購入することです。 病院内、寮の室内ではWifiが飛んでいますが、市内でもネットを使うために、ポケットWifiを持っていくか、SIMフリーの携帯を持参してプリペイドSIMカードを買うかどちらかになると思います。また意外と通話も使います。僕は手違いでどちらも使えず、多大な不便を強いられました。バス定期はコンビニなどで1ヶ月有効のものが7000円ほどで買えます。たまに切符チェックのスタッフが巡回しています。

【お金】

スウェーデンはクレジットカードが普及しています。トラベルプリペイドカードと呼ばれる、事前入金したうえでクレジットカードと同様に使えるものを2枚用意していきましたが、日常生活はこれだけで事足りました。現金を使う機会は学生団体のイベントのみでした。物価が高いと言われるように、確かに外食すると高くつきますが、生鮮食品は日本とほぼ同じ程度の値段です。

【服装】

気温は-3℃〜5℃くらいですので、マフラーや手袋のほかは日本にいる時の服装にヒートテックを1枚追加するくらいで対応可能でした。2~3cm程度の雪はときどき降っていたので、スノーブーツのようなものがあると良いかと思います。現地でも調達可能です。

院内では上下スクラブを貸与してもらえますが、院内履きは持参する必要がありました。スーツは必要ないかと思います。

【食生活】

 先輩方と同じように自炊していました。キッチンも狭く電子レンジもない不便な状況でしたが、クックパッドのおかげで意外と何とかなりました。昼食も物価が高く、また院内のカフェテリアも売店も今一つだったため弁当を持っていくことがほとんどでした。日本から持ち込んだものの中ではカレールーやだし粉末、インスタントみそ汁などが重宝しました。スーパーには醤油やわさび、海苔、米などの日本食も売っています。

【言語】

イエテボリ大学では特に応募に際して語学や医学知識の規定を設けていないため、USMLETOEFLに向けての勉強は行わず、秋以降に同じように留学予定の同期と英語での問診や身体診察の勉強会に参加した程度でした。

現地では医学英語ももちろんですが、社会制度や芸術、建築、家庭生活まで意外と幅広い分野で会話をする機会がありました。特に実習前半は相手の言っていることがわからず、こちらの意図も伝えられず、もっと英会話能力を磨いてから来るべきだったと後悔することが多々ありました。

看護師との申し送りや問診はスウェーデン語で行われるものの、カンファや授業は英語で行っていただくなど配慮していただきました。テレビ放送が英語音声+スウェーデン語字幕で放送されるとあって、先生方や現地の医学生は全員英語が堪能です。スウェーデン語のディスカッションをする場合でも合間に通訳していただけることも多々ありました。

スウェーデン語に関しては「ニューエクスプレス スウェーデン語」(白水社)を購入しましたが半分ほどしか終えられないまま出国することになってしまいました。このため、患者さんにスウェーデン語で自己紹介したり、最後に先生方に片言で実習のお礼を伝えたり程度しかできませんでした。それでもどちらも非常に喜んでいただけたので、自己紹介+αくらいは話せるとよいのではと思います。

【観光】

 早い日ではお昼過ぎに、遅くとも17時ころには病院を出ることができるため、カフェめぐりやバドミントンサークルに参加するなど充実した時間を過ごしました。教授自身が市内観光名所を案内してくださるというイベントもありました。また週末はイエテボリ沖合の島にある教授宅に招待してもらったり、他の北欧の都市に旅行したりと毎週遠出をしていました。イエテボリからコペンハーゲンやオスロ、ストックホルムへは3,4時間で行くことが可能です。またやや移動が面倒ですが北極圏でオーロラツアーや犬ぞりなどを楽しむこともできます。

【終わりに】

海外と比べたときの日本の医療の特徴について、知識として知っているのと肌で実感するのでは感じ方に差があります。医学知識が著しく増えたというわけではありませんが(英会話能力は多少は向上した・・と信じたい)、医療に関して当然視していた自分の中での尺度が実は一面的なものであることに気づけただけでも、この1ヶ月は価値があったと思います。

来年以降の方々へ。イエテボリ大学での実習は、決まったカリキュラムがあるわけではなく、こちらの希望に応じて1ヶ月のプログラムを組んでもらう形です。見学したい旨をアピールすれば例え他の科であってもできる限り調整してくださいます。確かに実際に患者さんを診察する機会は東大病院よりも少なくなってしまうかもしれませんが、ストレスを感じることなく、海外での医療を広く経験でき、非常に有意義なものになるとお勧めできます。何か疑問があれば、須崎宛にメール(suzaken59@yahoo.co.jp)を下さればできる限りお答えしたいと思います。

最後になりましたが、留学手続きをまとめてくださった丸山先生、奨学金を支給してくださった大坪先生、Dr.Henrik, Dr.Malinをはじめとする消化器内科の先生方には大変お世話になりました。また留学前にいろいろ現地の情報を教えてくださったI先輩と同期のNさん、今回の留学を支援してくださったすべての方々に改めてお礼申し上げます。ありがとうございました。