海外実習感想文 MDアンダーソンがんセンター 20163

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○実習内容

 229日から318日の間、MDアンダーソンがんセンターを見学させていただきました。以前より、日本での病院実習などを通して抗がん剤治療に興味を持っており、将来的にも抗がん剤治療のプロフェッショナルになりたいとおぼろげながら考えていた中、MD Anderson Cancer Centerという、世界をリードするがん専門病院で見学をさせていただけたことは私にとって非常に大きな財産となりました。見学を通して感じたことをいくつかのトピックに分けて書かせていただきたいと思います。

・チーム医療

 チーム医療という言葉は日本でもよく耳にする言葉ですが、大抵の場合「医療は多くの職種の人がかかわってなされるのだから、お互い尊重しあいましょう」程度に認識されていると感じていました。しかし、MD Andersonではチーム医療がより体系的に、logicalになされていました。外来診療ではNurse Practitioner, Nurse, MDなどが日本よりもはっきりとした役割分担のもと、各々の役割をしっかりと果たしているように感じました。また、そのチーム医療の根幹を支えるtheoryについての講義もなされており、チームとしてのパフォーマンスに対する関心が日本に比べると高いように感じました。日本とアメリカでは文化的な差異があり、MD Andersonのやり方をそのまま真似することは難しいかもしれませんが、チーム医療についての「理論」を意識することは日本の医療を向上させうると感じました。

multidisciplinary での外来診療

 3週のうち1週間、breast medical oncologyを見学させていただきました。乳癌の治療は手術、化学療法、放射線療法を組み合わせて行われることが多いですが、MD Andersonでは今後の展望を患者さんとディスカッションするにあたって、breast surgical oncology, breast medical oncology, radiationMDたちが代わる代わる一対一で患者さんと話していました。患者さんにとっては、自分が受ける治療一つ一つについて専門家に説明してもらえることは、安心感につながり、治療者に対する信頼感も生まれると思います。日本では一人の外科医が全体的な治療を決め、化学療法や放射線療法は他科コンサルトという形で、あるいは自分でやってしまうことが多いと思います。ずっと同じ医者に診てもらえるという安心感はあるでしょうが、人によっては全ての治療プロセスをそれぞれの専門家にやってもらいたいと感じる患者さんもいるでしょう。これも患者と医療者との関係という文化的な要素が影響する部分ではありますが、それが患者のためになるならば、日本でもmultidisciplinaryでの外来診療をやってみる価値はあると感じました。

・患者と医療者との関係

 今回の見学でもっとも印象に残ったのは患者と医療者の関係が日本とは大きく異なるということでした。日本では基本的には、診断法や治療法に関して医療者が説明して、患者さんは医療者の説明の中で「分からないこと」を質問するというような形で診療がなされています。MD Andersonでは多くの患者さんがしっかりとインターネットなどで自分の疾患、診断法、治療法について調べてきており、医療者の話を聞きに来るというよりむしろ、ディスカッションをしに来ているというような印象でした。「この治療法を試したい」「この治験に参加したい」「どうしてその検査をする必要があるのか」などの、日本で言われると一瞬ひるんでしまうような発言がしょっちゅうなされていました。また、これはアメリカ人と日本人の性格の違いというよりは、外来診療という場の作り方の違いによるものだということもわかりました。具体的には、質問をするのは良いことであるという雰囲気を作っていること、また医療者は質問を歓迎しているという姿勢を見せること(医者と直接コンタクトをとれる連絡先を渡す)などが実践されていました。

 日本のやり方とMD Andersonのやり方でどちらのほうが優れているとか判断するのは非常に難しいですが、少なくともMD Andersonでは患者さんが納得しないまま治療が行われているということはほとんどないように見えました。

・日本の医学部出身者がアメリカで医療を行うということ

 日本で生まれ育った人間が異国で暮らしながら働くにはそれなりの苦労は避けて通れないものだと思います。日本の医療システムは世界的に見て明らかに劣っているわけでもないのに、苦労を感じながらアメリカで働くことを選ぶ理由は、アメリカでしかできないことがあるからにほかなりません。例えば、大規模な前向き臨床試験は日本よりもアメリカのほうが行いやすい環境にあると思います。私は将来的にはがんの研究に携わり、がん診療の進歩に貢献したいと考えておりますが、正直なところどのような研究をしたいかはまだ決められていません。これからしっかりと考えた上で将来の展望を具体化させていきたいと思います。

 

○実習への準備

 MDアンダーソンがんセンターは東京大学と交流協定プログラムが締結されていないため、個人的に先方の先生と連絡を取りながら、実習内容や日程を相談させていただきました。僕の場合は1学年上の先輩が同様にエレクティブクラークシップでMDアンダーソンを見学なさっていたため、その方に紹介していただきました。

 ひとたび連絡が取れた後も、基本的には先方の都合で話が進んでいくため、全て自分の思い通りにはいきませんでしたが、大切なことは、やりたいことをはっきりとやりたいと言うことかと思います。メールの文面などでも日本とアメリカでは書き方が異なり、こちらが伝えたいことが伝わらないということが実際に何度かありました。まずは英語のメールの書き方を少し勉強してからやり取りすると良いかもしれません。

 また、先方から要求される登録作業はとても時間がかかるので、なるべく早めに準備を開始したほうが直前に焦らなくて済むと思います。

 

○ヒューストンでの生活

 MDアンダーソンはテキサス州のヒューストンに位置しています。私は中心部のダウンタウン(MDアンダーソンまで路面電車で20分くらい)のホテルに宿泊していたのですが、平日は活気があって、オフィスワーカーのような人が多い一方、休日はゴーストタウンとなり、治安が良くない印象でした。現地の先生方によると、治安のことを考えても、見学に行くならばMDアンダーソンの周りのホテルに宿泊するのが良いとのことでした。私が見学に行ったのが3月の初旬から中旬で、ちょうどMDアンダーソンの近くではロデオフェスティバルという非常に大きなイベントが行われていたため、ホテルが空いていませんでした。ですので、今後見学に行かれる方はそのあたりも考慮して日程を調整していただくのが良いかと思います。