実習感想文(体験記)

M3 female

 

Elective Clerkshipとして、私はアメリカにある2つの基礎研究室で研修させていただきました。この時期に基礎研究室への留学を選んだのは、第一に世界最先端の研究に触れたいという好奇心が大きかったです。もう一つは、将来的に基礎研究していても臨床医になっていたとしても、(臨床ではなく)研究で海外留学したいという思いがあり、学生のうちに一度その経験を積んでおきたいと思ったからです。国内外で臨床実習する人が圧倒的に多いと思いますが、将来の選択肢が増え、大変貴重な参考材料を得られたという意味で、私個人としては基礎研究室へ留学できてよかったと思っています。また、留学という経験自体が大変意義のあるものだということが今回よくわかりましたので、少しでも興味がある人はチャレンジしてみてください。

 基礎研究室に留学を考えている人、BostonStanfordに留学しようと考えている人は参考にして頂ければ幸いです。(下線部は忙しい人向け

 

1) 準備

 1-1) 留学の目的・目標設定、研究室検討。

 1-2) 自分からPIに直接メール。 (メール本文は推敲を重ねた。ただし、結局所属研究室の教授の推薦の力が一番大きかったかもしれない。)

 1-3) 手続きでは真っ先にビザについて確認。

 1-4) 飛行機と宿泊先は早めに確保。

 

1-1) まずは、留学にあたって何を目的にするか、何を学びたいかをよくよく考えました。そしてそれに合うような研究室を検討しました。場所はアメリカに絞っていましたが、数多くの魅力的な研究室が集まる中でここというところを選び抜くのは大変でした。これは、自分の馴染みのある分野と少しずれたところに行きたかったことや、今まであまり研究室がどことは気にせず勉強していたこと、はじめは方針がぶれがちだったことなど、色々と原因はあるので、苦労しない人は全く苦労しないと思います。基本的には研究内容が一番の決め手ですが、その他考慮に入れていたのは、できれば大学(優秀な学生がいる)、治安がいい、日本人がいない・・などです。

1-2) 私の場合は、基本的には研修させていただけないかというお願いを、自分から研修を希望する研究室のPIに直接メールで連絡しました。メールの内容は所属している研究室の尾藤晴彦教授にご指導いただき、推敲を重ねました。有名研究室のPIは毎日膨大なapplication letterを受け取っているので、興味を持ってもらえるように書く努力をしましたが、もうこの時点で心が折れそうになりました。また、世界標準では短期留学でも半年とか一年とかかけるのが当然のようで、1-2か月というと短すぎるので、そこをいかにお願いするのかも課題でした。実際、「期間が短すぎる」とか「今満員だから無理」とかでいくつかの研究室には断られましたが、あちらの立場からしたら当然の判断だと思います。結局、applyしたが断られ、また新しい研修先を探してletterを書きなおしてapplyをして・・というのに一番時間がかかりました。最終的に奇跡的にOKをいただけましたが、結局は自分のメールの内容以上に所属研究室や推薦状の力が大きかったのだろうと感じています。学会などで直接面識があったり、所属研究室から直接推薦してもらうなどのことがあれば話がもっとスムーズに進んでいたのだろうと思います。

1-3) PIからOKをいただけた後は、秘書さんとメールでやりとりして手続きを進めました。ここから先は大学や部門ごとに色々と事情が異なると思うので、秘書さんと綿密に連絡を取り合うしかないです。よく言われることですが、日本よりもルーズな秘書さんもいらっしゃるようなので(私がやりとりしていた秘書さんはそんなことはなかったのですが)、実験や安全対策の講習会とビザについては自分から積極的に確認しに行くべきです。どちらも研究機関によって多種多様で、かつ手続きに時間がかかることがあります。

ビザについては色々と調べましたが、結局のところ申請時は大使館の人の判断、入国時は入国審査員の判断なので、一概に絶対大丈夫な方法はないというのが結論です。ただ、今回の私の経験から言えることは、@3か月以内でもB-1ビザは取得可能で、多分取っておいた方が入国時気持ち的に楽なので、取得をおすすめするということと、A基礎研究で留学し、むこうのプログラムにfeeを払ったり給料をもらったりしなければ、(J-1ではなく)Bビザで全く問題なかったということです。(臨床実習の場合は色々とグレーだと思いますが。)まずは秘書さんに研究機関として何か推奨するビザがあるか聞きましょう。少なくともMITStanfordでは海外からの留学生を受け入れるときのルールが決まっていて、私の場合はJ-1ビザがルール上不可で、business stateで来るように言われました。3か月以内なのでwaiver programを使えたのですが、入国拒否を出来る限り回避する目的でB-1ビザを取得しました。

ビザの申請時は、申請を許可していただくため出来る限りの資料を揃えました。(@Invitation letter:研究という入国の目的を明示(無給であることも主張)、 A飛行機と宿泊先の予約を証明するもの・銀行口座残高証明・留学助成金をいただくことがわかるletter:アメリカに渡航し暮らし帰ってくる財力があることを明示 Bパスポート・大学の在学証明書・成績表:身分証明 C(念のため)JビザではなくBusiness stateで来てくれという旨のメールのコピー ※ちゃんと自分でも必要書類をチェックしてください!!)資料を揃えていたためか、面接はさらっと無事終わりました。とにかくビザに関しては早めに動くことが大事だと思います。受け入れ先に確認を取るのにも時間がかかることがありますし、Webで申請すること自体時間がかかりますし、色々資料を揃えるのにも時間がかかりますし、面接の予約も年末は取りにくいですし、面接後ビザが発行されるまでも時間がかかります。
 ちょうどパリのテロの直後で、爆破予告までされていたワシントンで入国したので入国時も心配でしたが、B-1ビザがあったためか一瞬で終わりました。念のため、ビザ申請時の資料は全てすぐに出せるように用意していました。

1-4) 飛行機は日程が定まり次第生協で確保しました。早く申し込むほど安い席が手に入りやすいですし、特に年末年始は混むので直前には手頃な便は全て満席でした。宿泊先は、BostonではBooking.comで見つけたゲストハウス、StanfordではStanford Guest Houseという来訪者向けのホテルを予約しておきました。一定期間暮らす場所なので、治安やアクセスの良さ、生活しやすさ、家賃(BostonStanfordはアメリカでもトップクラスに宿泊費や物価が高い都市です。)を考えるとそこまで選択肢は多くなく、こちらもcancel policyをしっかり確認したうえで、早めに予約しておくに越したことはないでしょう。

 

2) Bostonでの研修と生活

  研修先:Feng Zhang Lab, Broad Institute of MIT and Harvard (2016/01/02-2016/01/30)

 2-1) 一日中研究室にこもってひたすら実験する毎日

 2-2) Bostonの衣食住とネット環境について

 

 2-1)

20161月、1か月間Feng Zhang Labにて研修させていただきました。Feng Zhang LabCRISPR systemの開発や応用で世界に革新をもたらし続け、この分野で最も注目されている研究室のひとつです。Zhang Labでは、CRISPR systemcharacterizationをやっている方について、基本的にはその方のプロジェクトのお手伝いをさせていただきました。DNAワークが中心でしたが、RNAを扱ったり最新の実験機器を使わせていただいたりと、様々な実験をさせていただけました。また、膨大なサンプル数をこなす良いトレーニングになりましたし、あらゆるところで正確性を求められるので厳密に実験する意識も高まりました。気が付いたら、土日問わずほぼ毎日、夜遅くまで研究室にはこもって実験していました。ただ実験をこなすだけでなく、周りに教えてもらったり、習ったプロトコルを他の人に教えたり、実験プロトコルや結果についてディスカッションしたりする機会が非常に多く、コミュニケーションのトレーニングという点でもかなり良い経験ができたと思います。また、研究室に所属するPhD studentや海外からの留学生は非常に優秀で積極的で、大変刺激を受けました。Fengはもちろんですが、彼らと交流できたことも大変貴重でした。教務課に提出した感想文に研修内容についてはもう少し詳しく書いたので、興味のある人は参考にしてください。

2-2)

宿泊先Bostonは外食だとかなりお金がかかりそうだったので、自炊ができるキッチンのついたゲストハウスにしました。地下鉄green linePrudential centerから徒歩5分という、治安も良く、大きな24時間営業スーパーやショッピングモールが近く、Symphonyにも徒歩で行けるという好立地で、部屋もきれいで広く、コスパ的に大変満足のいくゲストハウスでしたので、そのまま1か月そこで生活しました。Bostonはそこかしこに綺麗な街並みや歴史的な建造物があって、歩くだけで楽しかったです。また、地下鉄やバスが便利で、私は7 day passという1週間地下鉄とバスに乗り放題のパスを愛用していました。地下鉄は平日の2時くらいにも動いていてとても便利でしたし、(さすがに相当警戒していましたが)夜遅くでも危ない目に会うことは幸いなく、アジア人女性1人でも安全に過ごせました。ただし、Bostonといえど危険地域はかなり危険らしいので、十分注意してください。

食事:食事は週1-2回ほど色々自炊して、タッパーに分割して食べていました。毎日かわるがわる色々なメニューというわけにはいきませんでしたが、食費は確実に浮きますし、現地スーパーでの買い物も楽しかったです。何よりも昼はわざわざ研究室外に食べに出る時間的余裕もなく、夜も実験が終わってからやっているお店が少なかったりと、時間の制約上自炊できて本当に便利でした。

衣服(主に女性向け)Boston1月ということでかなり防寒を意識した服を持っていきました。基本的には、ニット帽(私はBostonで初めてニット帽の暖かさに気が付きました)・雪国対応のダウンコート・ウルトラライトダウン・ニットかカットソー・ヒートテック・長ズボン・防寒防水のロングブーツで過ごしていました。本当に寒い日は1月のうち3日ほどしかなかったのですが、そのときはもっと着込んで、耳あてやマフラー、手袋を追加しました。また、バッグは肩掛けで口の閉じられるものを持っていきました。リュックサックや口が開いているバッグは知らないうちに盗難される恐れがあるのではと思ってそうしましたが、むこうではリュックのひともたくさんいました。

現地調達:私はあまりのんびり買い物する時間もなかったので色々日本から持っていき正解でしたが、衣服や日用品は必要最低限持っていき、足りなければ現地調達というのもいいと思います。ただし、Bostonは物価が高めの印象でした。あと、家でリラックスしたくてスリッパを現地調達しようとしたところ、ほとんど売っているのを見つけられず苦労したので、スリッパだけは日本から持っていくことをおすすめします

ネット環境:衣食住のほかに、PCやネット環境はかなり重要だと思います。まずPCに関しては、全てバックアップ取ったうえでノートパソコンを持っていきました。研究室にも毎日持っていき、空き時間に勉強したり調べ物をしたりするのに使うので必需品でした。ネット環境については、研究室とゲストハウスではそれぞれ無料でWi-fiを使わせていただき、移動中は日本のSIMフリースマホにアメリカの通信会社のSIMを入れてプリペイドプランを契約していました。プリペイドプランで安価に安定したネット環境を獲得できたことはかなり便利でした。(海外用のWi-fiルータや携帯を借りるよりかなり安く済み手続きも簡単です。)移動中は地図などに何度も助けられましたし、アメリカで使用できる携帯電話番号をゲットできたのも緊急の連絡手段として役に立ちました。また、携帯電話番号は日本と同様あらゆる場面(お店の予約とか種々の会員登録とか通販とか)で要求されるので、あると色々と手続きが楽に済みました(なくても何とかなると思いますが)SIMフリースマホの注意点は、周波数帯が日本とアメリカで違うので、自分の持っているスマホが対応する周波数帯を持つ通信会社を選ぶ(もしくはスマホを現地調達する)ことと、自動契約更新にチェックを入れないことです。

 

 

3) Stanfordでの研修と生活

 研修先:Thomas Südhof Lab, Stanford University (2016/02/01-2016/-2/29)

  3-1) 幹細胞研究の面白さにどっぷり浸かった日々

 3-2) Stanfordでの衣食住(特にhomestay)について

 

 3-1) 2月はSüdhof Labで研修させていただきました。PIThomas Südhof2013年にはシナプス小胞分泌メカニズムの解明への寄与に対してNobel賞を受賞されており、シナプス研究で世界をリードしてこられた研究者です。私はhuman ESCs, iPSCsを神経細胞に分化させるiN cell protocolを習わせていただきました。Südhof Labは、世界に先駆けて、約1か月という短期間で成熟しシナプスを豊富に形成するプロトコルを発表し、さらにいくつかの疾患感受性遺伝子についてiN cellを使って研究した成果を発表しています。そのような最新の技術を学べたのは貴重な機会でしたし、実際細胞がどんどん分化していく様子はとても神秘的で毎日観察するのが楽しみでした。Südhof Labには若手〜中堅のPostdocがメンバーのほとんどを占め、Zhang Labより年齢層が高かったため、また違った雰囲気がありました。アメリカでPhDを取得した人たちがどのような人生設計をしているのか色々と見聞きできて非常に参考になりました。PhDを母国で取ってからアメリカでPostdocとして頑張っている人も多かったです。西海岸の解放的な雰囲気のせいもあってか、彼らは仕事とプライベート(家庭や趣味など)のバランスを取るのがとても上手で、忙しいながらも楽しそうに日々を過ごしていたのが印象的でした。私自身ラボにこもりきりというよりは、実験を集中して行ったあとは自由に勉強したり、他の研究室を見学したり、観光に行ったり、自分の将来について考えたり相談したりと、自分の時間をたくさんいただきました。こちらについても、教務課に提出した感想文の方にもう少し詳しく書いたのでよければ参考にしてください。

 

 3-2)

 宿泊先:はじめはStanford Guest Houseに泊まっていました。とても良いホテルで、シャトルバスや送迎バスがあり便利だったのですが、宿泊費がかなり高かったため、現地でhomestay先を探し、到着後5日目にはhost familyの家に移動しました。homestay先はMenlo Parkにあり、ラボまでは自転車で15分ほどでした。Stanford周辺も大変治安の良い栄えた地域ではあったのですが、とにかくだだっ広く(大学構内を歩いて回るだけでも1日じゃ足りなさそう)、駅周辺を離れると田舎の風景が広がっていました。基本的に、Stanford周辺で生活していくには自動車か自転車をもつか、大学のシャトルバスに頼るか、の3だと思います。 私はStanfordの自転車屋さんで1か月間自転車をレンタルしましたが、自動車が運転できればもっと便利だっただろうなと思います。とはいえ、ほぼ毎日快晴で気持ち良くサイクリングでき楽しかったです。ちなみに、他に利用して便利だった交通機関は、Caltrain(観光用), Uber(白タク/アプリが便利/安い)、大学の無料シャトルバス(大学構内と近くのショッピングモールまで自由に移動できる)、SuperShuttle(空港送迎用/乗り合いバス/Web予約可能/利用者が多いためか乗り合いの待ち時間も許容範囲)などです。

今回、私は予定外にhomestayをすることに決めました。一番は宿泊費を抑えるためでしたが、物価がBostonよりさらに高く、お財布と健康のために自炊したかったこと、他の留学生たちがhomestayを楽しんでいたりしたことにも影響されていたと思います。物件探しにはAirbnb, Craigslist, SUpost, Tripadviser等を利用しましたが、最終的にはAirbnbですぐに返信をくれた若い夫婦の家を見学に行き直接会って、とても居心地が良さそうでReviewの評判も非常に良かったので、即決しました。ゲスト用のベッドルームとバストイレを貸してくれ、洗濯機や広々としたキッチンも使わせてもらえて、至れり尽くせりでした。基本的に食事は別で生活リズムも敢えて合わすことなく程よい距離間でしたが、時間が合うと地元の情報や趣味の話、仕事の話をして盛り上がりました。たまたまですがhost fatherStanfordPhDを取得したbiologyの研究者ということもあり、ますます勉強になりました。仕事とプライベートの両立が上手と上に書きましたが、ラボとはまた違った視点でそれを多いに実感することになりました。

ホテルが一番安全なことは間違いないと思いますし金銭的に余裕があるならその方が安心だと思いますが、Stanfordは治安も良いので、homestayにチャレンジでき良い経験になりました。もっと安く済ませようと思ったらshare houseにするといいと思います。Airbnbはお安いところから割高なところまで様々ですが、お互い顔が見えてレビューを読めるところが良いです。SUpostは大学院生以上のStanford IDを持っている人だけが投稿できるので、大学近くの物件が割安で提供されていますし、投稿者の身分も一応はっきりしているので、一般のサイトよりは安心できそうです。いずれにせよ、homestayshare houseをする場合は現地で実際の家を見て、家主と顔を合わせてから決めた方がいい気がしました。Bostonで会った留学生たちは、現地到着前に家を探してもほとんど返信すらもらえなかったという話や、いざ契約しても酷いところですぐに退去したという話をしていました。それを参考に、自分がメールで連絡を取るときは、『今既にStanfordの研究室に留学をしていて、家主さんの都合がいいときに見学しに行きたい』と書いたら、ほぼ全員から返信をもらえました。全体的に治安の良い地域ですが、詳しい情報は留学先の方に聞けば地元の様子がすぐわかるというメリットもありました。ただ、非常に競争が激しいので、24時間以内に投稿された物件でもすでに先約が入っていることもありました。また、有名な話ですがCraigslistなどの掲示板は詐欺物件もありますし、顔合わせにはリスクを伴うので、十分注意しましょう。

食事Bostonと同様基本的に自炊していました。

 衣服:東海岸とうってかわって、西海岸カリフォルニアはとても過ごしやすい気候でした。イメージでは日本の5月くらいの一番暖かい日がほぼ毎日続くような感じです。ただし、早朝と日没後はかなり寒いので、温度調節できる羽織物が必須でした。自転車で移動するということでStanfordではリュックと運動靴を買って、アクティブに過ごしました。ちなみに、Stanford近辺は1月だけ雨が毎日降って寒いのだそうです。また、同じCalifornia州でも気候は場所によりかなり異なるので注意してください。

 ネット環境StanfordHomestay先のWi-fiと、Bostonに引き続きプリペイドプランのスマホで快適に過ごしました。

 

 

最後になりましたが、このように無事充実した留学をすることができたのは、国際交流室の先生方、神経生化学教室の尾藤晴彦教授とその他研究員の方々、MD研究者育成プログラムとその先生方、教務の方々、そして受け入れ先の研究室の方々、そして家族と、様々な方にご支援いただけたからこそです。この場を借りて感謝申し上げます。

また、本留学に際しては医学部の先輩方からもたくさんのアドバイスをいただきました。私も少しでも後輩の方々のお力になれれば幸いですので、もし疑問点などございましたら国際交流室を通じてご質問ください。