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U〜V期:世界保健機関

2016 2 月〜3月の WHO インターンシップを終えて

 

 今回WHOGlobal Polio Eradication Initiativeでのインターンを希望した理由は、元々感染症や国際保健に興味がありながらも、実際に国際機関がどのように世界的な方向性を決めたり、感染症のプロジェクトを行ったりしているのかを知らなかったので、それを現場で見てみたいと思ったからです。2015年の6月ごろに国際保健政策学教室の渋谷健司教授にお会いし、 WHO でのインターンシップを希望している旨をご相談しました。そして9月ごろに、ポリオの部署にいらっしゃる、先生のお知り合いの岡安先生に繋いでいただきました。その後、電話やメールで岡安先生とご相談しながらインターンの内容を決めていき、11月ごろにインターンの正式な受け入れ書類が届きました。

 インターンの内容は、パキスタンのポリオの現状のデータ収集・解析となりました。ポリオは、天然痘の次にWHOが撲滅すると言われている感染症で、現時点でまだ撲滅できていないのはパキスタンとアフガニスタンの二カ国だけとなっています。岡安先生の部署は今年の内に世界中の野生型のポリオウイルスを撲滅しようとしており、そのために新しい手を打とうとしていました。その補助として、現状の様々なデータを集め、解析することが私の仕事でした。事前に渡された資料を事前に読んで理解し、英語のメールや文書作成の勉強もしておきました。また、感染症の部署だけでなく他の部署の話も聞いて、WHOの世界での役割のイメージを掴みたかったので、そのために、ホームページなどで話を聞きたい部署の勉強もしておきました。

 それと同時に生活面での準備も進めました。WHO本部のあるジュネーブは、物価が高く、短期で借りることのできる部屋も限られています。更に、今年はISILによるテロでヨーロッパでの治安も心配でしたので、それを考慮した場所にしたかったこともあり、部屋探しは難渋しました。渋谷先生の研究室から 以前WHO にインターンシップに行った先輩方のお話を参考にしつつ、なんとかジュネーブ空港とWHOから徒歩圏内のアパートを見つけることができました。

 インターン期間開始の二日前に日本を出発しました。ヨーロッパは今年は暖冬らしく、ジュネーブは想像したほど寒くなかったです。

 ポリオの部署では、まずはデータの見方を教わり、ミーティングに参加して部署全体の仕事について学びました。私はエクセルなどを使ったいわゆるオフィスワークをしたことがなかったので、初めはあたふたしていましたが、次第に慣れていきました。与えられたデータ解析の課題をこなしながら、ポリオプロジェクトの全体像を掴んでいきました。

 ポリオウイルスを絶滅させる戦略は、まずIPV(不活化ワクチン)よりも獲得免疫力の強いOPV(経口生ワクチン)を5歳以下の子供全員に年に数回投与し、その地域のpopulation immunityを上げることで野生型のポリオウイルスを絶滅させ、その後OPVIPVに切り替えることで、生ワクチン由来のウイルスも絶滅させ、この世界から全てのポリオウイルスを絶滅させる、というものでした。

 しかし、アルカイダの存在などによりワクチン接種者が入っていけなかったり、各ワクチンチームの担当の家が不明瞭で漏れがあったり、大規模な人口の移動などがあったりといった理由で、ワクチンのカバー率が低い地域がパキスタンやアフガニスタンに残っており、そのために野生型ポリオウイルス1型による急性弛緩性麻痺だけは、まだそれらの地域で起こっていました。これらの地域に対して、多くの人が通る主要道路や駅にワクチンの接種地点を設けたり、GPSで各チームの担当の家を明示化したりなどといった新たな試みをすることで、各地域のワクチンカバー率を上げようとしていました。

 それと同時に、すでに15年近く野生型由来の急性弛緩性麻痺が起こっていない2型ウイルスに関しては全世界で同時にOPVからIPVへの切り替えをしようとしていました(同時に行わないと、IPVで獲得免疫力が落ちた地域でOPV由来のウイルスが蔓延してしまい得るため)。そのために製薬会社と共同して途上国向けのIPVを用意したり、アウトブレイクが起こった際の対応のためにOPVをストックしておいたり、といった準備を進めていました。

 このように、ポリオの部署は各国のプロジェクト運営や国内事情にコミットしていましたが、WHOの他の部署のお話を伺ってみると、基本的には各分野の研究結果を分析してグローバルな基準を作り、それを各国の医療政策に反映させる支援をする、というものでした。個人的には、各国内によりコミットして、結果も目に見えやすいポリオや感染症アウトブレイクの部門のお仕事が面白そうだと感じました。また、例え将来WHOで働くとしても、その分野の専門性がないと意味がないとも感じました。今回のインターンで色々なお話を伺って、グローバルヘルスの世界的な潮流に興味を持ったので、毎年のWorld Health AssemblyG7などの保健分野の決定をフォローしつつ、自分の専門分野を固めていこうと思いました。今回のインターンは、今後の自分の進路を考える上で、大きな影響も持つものになったように思います。