M3 male

 

I        The Department of Art as Applied to Medicine (Johns Hopkins Medicine)

II       The Department of Art as Applied to Medicine (Johns Hopkins Medicine)

 

Medical Illustration & Animation最先端

 

1.始めに

14日から226日まで、アメリカBaltimoreにあるJohns Hopkins Medicineに行ってきました。但し、国際交流室の学術交流協定に基づいて行ったものではないので十分注意して下さい!

通常は国際交流室の枠を通して毎年優秀な2名が外科や内科、救急などに行くのですが、私の場合は病院ではなく、病院に隣接されているThe Department of Art as Applied to Medicineと言う学科に直接自分で交渉して行きました。Medical Illustration & Animationを専門に学べる学科です。Netterやプロメテウスの解剖学アトラスを作っているようなところだと思って下さればだいたい合っていると思います。

果たして今後、東大から同じThe Department of Art as Applied to Medicineに行きたい方が現れるのか非常に微妙ですが…

 

2.動機

私は東大に通う傍ら、3DCGの専門スクールとダブルスクールをしたりして、3年生くらいから日本で独自にMedical Illustration & Animationを制作していました。裁判員制度で自分の作った3DCGが使われたり科学未来館で講演をしたりと嬉しいことがたくさんあったのですが、日本にはNetterのようにイラストレーターで且つ医学の専門知識を医者と同程度、または医者以上に持っているような人材を育てる教育機関が一つもありません。一方でアメリカ、カナダではJohns Hopkins Medicineのように、全米1位、2位を争う優秀な病院が医学専門のイラストレーターを育てるための教育機関をしっかり抱えています。日本が敵うはずがないですね。

私が3年生のときの秋に一度だけ、The Department of Art as Applied to MedicineDirectorの先生が来日したことがあり、その時Directorのところに押しかけていって「5年生の1月〜3月までの期間に是非先生の学科に行って勉強したいです!約2年後によろしくお願いします!」と言って名刺や自分の作品集を渡して帰ってきました。相当な怖い者知らずです。

 

3.準備

医学部とは別に東京大学の奨学金制度があるのですが、この申し込み期限が例年6月中旬くらいまでで、このときまでに先方の大学から受け入れOKのメール若しくは手紙を頂いていないと奨学金にApply出来ません。それもあって4月くらいから相手方にメールを出したりしてやりとりをしていたのですが、色々あって6月には間に合いませんでした。10月後半のClinical Clerkship希望登録までに間に合えば大丈夫なのですが、奨学金を考えている方は早め早めに動いた方が良いです。

9月になって先方から正式な受け入れOKの返事が来ました。基本的には絵を描く学科なので、ただ熱意があるだけ、興味があるだけでは当然ダメで、私の場合は先方から、「今までに日本であなたが作った作品を全てオンライン経由で送って下さい。」と言われ、300MBくらいのデータを全て送りました。先方のFaculty membersで選考会議のようなものが行われ、その結果としてOKが出ました。自分で独自に海外に行く場合、相手から見れば、どこの誰ともわからない外国人から突然受け入れ希望の連絡を受けるわけですから、熱意はもちろんのこと、日本での実績や大学での成績、自分なら何をどこまで出来るかを明確に説明出来るようにしておくことがとても大切だと思います

The Department of Art as Applied to Medicineとの受け入れ交渉に際して、医学英語のMelinda Hull先生に非常にお世話になりました。私はメールで先方とやりとりしましたが、Hull先生は直接先方に電話して下さり、メールで直接聞くのはちょっと微妙な学費や居住に関する交渉を引き受けて下さいました(その結果、学費は無料になりました!)。この場を借りて感謝申し上げます。

こうして1月、2月の2ヶ月間の受け入れが決定したわけですが、あとで聞いた話では、The Department of Art as Applied to Medicine80年間くらいの歴史の中で、私のような短期visiting studentを受け入れるのは今回が初めてだったとのことです。しかもアメリカ人ではなく日本人の私で…

しかし、先方からの受け入れOKの返事が来るだけではダメで、今度は東大にも認めて頂かなくてはいけません。Clerkship担当の教務委員の先生方が首を縦に振らない限り、Clerkshipとして行くことは出来ません。臨床系の学科を選ぶのが原則ですので、どうしてもThe Department of Art as Applied to Medicineでなければいけない理由を書いて提出します。私はそれこそ嘆願書を書くようなつもりでA4の紙にぎっしり5枚も熱意と実績をひたすら書きました。その甲斐あってか(?)東大からもOKを頂き、東大にとってもJohns Hopkinsにとっても史上初となるThe Department of Art as Applied to Medicineへの短期受け入れが実現したわけです。

 

4.英語

私の場合、TOEFLスコアもUS-MLEも必要ありませんでしたので、試験用の勉強はしませんでした。が、日常会話は出来るようにしていかないと生活できないと思ったので、NHKラジオの「英語5分間トレーニング」と「ラジオ英会話」を出来る限り毎日聞くようにしていました。専門的な会話は実は単語とパターンを覚えてしまえばそれほど難しくありませんが、日常英語はとにかく難しいです。若者はslangを多用してきます。ですが日本の中学でも高校でもslangは学びません。いくらUS-MLEの勉強をしてもslangは身に付きません。自分で勉強しましょう。「ラジオ英会話」は短いdialogueの中にたくさんのslangが詰め込まれているので便利です。また、「英語5分間トレーニング」は音読に重点を置いているプログラムで、英語っぽいイントネーションやリズムの付け方を身につけることが出来ます。

アメリカは人種のるつぼなので、方言も多いです。日本では聞いたことの無いような発音で話す人もたくさんいます。日本にいるうちに、出来るだけたくさんの英語に触れておくようにしましょう。Holmes先生がやっているER Eveningも良いのではないでしょうか?私はClerkshipが終わってからER Eveningに参加するようになったのですが、非常に勉強になります。そして本場のドラマの英語が早すぎて全然わからず見事に撃沈します。ドラマを見るのが最も良い勉強方法かもしれません。ERも良いですが、私はHOUSE M.D.が大好きです。M3の実習で小児科の先生に勧められてDVDを買ったのですが、面白すぎてはまってしまいました。ある患者1人にスポットを当て、1時間かけてその患者が何の病気なのかを明らかにする推理ドラマです。鑑別診断もたくさん出てきて、医学の勉強にもなるし、slangの勉強にもなります。

 

ちなみに私はBaltimoreに到着して一週間くらいしたときに39℃を超える熱を出して、保健センターのようなところに行って患者として診察を受け、採血も受けました。専門的な会話と日常会話のどちらもそれなりに出来ていないとかなり苦労します。僕は苦労しました…

また、Baltimoreでは50年に一度と言われるくらいの記録的・歴史的な大雪で2月の中旬に1週間まるごと大学が閉鎖されました。電車も何もかもストップしてしまい大変だったのですが、自分の携帯電話に鉄道会社から電車のキャンセルと代替手段を知らせる電話がかかってきたりしました。このようなときにしっかり英語を聞き取れるかどうか、受け答えが出来るかどうかは自分のスケジュールに直接影響します。まわりもフォローはしてくれますが、日常会話をそれなりに出来るようにしていくことがとても大切だと思います。

 

それから、単位の勉強をしていきましょう。一般のアメリカ人にkgとかcmとか言ってもわかってくれません。mileとか、poundとか。温度もCではなくFです。超面倒です。諦めて覚えましょう。

 

5.Baltimore

色々な行き方があると思いますが、私は成田から飛行機でNYJ.F. Kennedy Airportまで行きました。空港からマンハッタンまで移動するわけですが、実は地下鉄を使えば千円もしないで移動できます。バスやタクシーで数千円もかけるよりずっと良いでしょう。マンハッタンにあるPenn Stationと言うところからBaltimorePenn Stationに向かうAmtrakが出ています。日本で言う新幹線みたいなものです。日本から予約出来ます。2時間半くらい乗るとBaltimoreに到着です。駅から病院まではそれなりにあるのでタクシーを使うのが良いでしょう。千円くらいで到着です。

治安は良くないそうですが、現地の友達と一緒にいればあまり怖くないです。1人でぶらぶら歩き回るのは止めた方が良いかもしれません。日本と違ってすぐ近くにコンビニやスーパーがあるわけではありません。Baltimoreでの生活で最も困ったのは、実は英語でもホームシックでもなく食生活でした。

店が無い上に、寮であるReed Hallにとまる場合、短期滞在の学生用の棟にはキッチンがありません。あるのは電子レンジ1台だけ。冷蔵庫も先着5名分しかありません。

私の場合は親に頼んで、電子レンジで温められるご飯パックと、レトルトの牛丼とかカレーとかを大量に送ってもらいました。コンロがないのでお湯も沸かせないのですが、電源プラグは各部屋にあるので、Amazonで小さな電気ポットを買って、それでお湯をわかしていました。

あとは友達の家やレストランに連れて行ってもらったり、キッチンのある棟に住んでいる学生と友達になってご飯作ってもらったりしていました。週に2回だけ寮からスーパーやショッピングモールに連れて行ってくれるシャトルバスが出ますが、とても混んでいます。車を持っている友達を作って乗せてもらうのが良いと思います。友達を作るのはとても大切です。

 

6.実習内容

The Department of Art as Applied to Medicineに行きたい方なんてまずいないと思うので、さらっと書きます。

基本的に毎日朝9時に始まって夕方5時に終わります。私が行ったときは、ペンとインクを使って脳や胸部、腹部を医学的に正しく描くと言う実習や、病理や手術中の写真をどのように綺麗に撮るかと言うような実習が行われていました。写真実習の先生は、ロビンス病理学で使われている写真を提供しているような先生で、その道では超一流です。日本で彼のような先生は…いるのでしょうか??

その他、先天奇形や外科的切除によって片眼を失った患者さんや、片耳がない患者さんなどのための義眼や義耳を作る授業もありました。それぞれの人種や年齢に合わせて色を選んだり、皮膚に優しい型の取り方を実習で学んだりしました。日本語で言うところの「補綴」ですね。アメリカでは優秀なアーティストがしっかり医学を勉強して義眼などを作っているので、色の付け方が神がかっており、近くで見ても本物と区別がつかないほどの出来映えです。ここでも日本との格差を目の当たりにしたような気がしました。

水彩画の授業では、胆嚢摘出術や肝部分切除の手順を水彩画でわかりやすく且つ正確に表現する実習がなされていました。

この他、ときどき皆で病理の研究室や放射線の研究室に行って教授クラスの先生が講義をして下さったり、機材の説明をして下さったりしました。医療従事者も全面協力でイラストレーターをしっかり育てているという印象でした。授業の枠以外でも疑問点などがあれば教授クラスの先生が時間を作ってイラストレーターの卵と一対一で向き合って下さるような体制で、何をやっても日本の出る幕はないような、そんな気持ちにさえなりました。

この他3DCGの実習もあったのですが、Johns Hopkinsは伝統的にNetterのような手描きイラストに強い学校ということもあり私はほぼ毎日学生から質問を受け、先生のような扱いになっていました。日本で独自にではありますが一生懸命3DCGの勉強をしておいて良かったと思いました。何か一つでも現地の人よりも秀でている部分があると、多少英語が苦手でも周りに認めてもらうことが出来ます。おそらく臨床実習の場合では、「日本ではこう治療する」みたいなものを何か1つでも完璧に覚えていくと良いのではないかと思います。

右の画像はJohns Hopkinsで私が作った作品です(実際はフルカラーです)。Johns Hopkinsで研究されている先生の論文を読んで、その論文の内容を雑誌の表紙として1枚の絵で表現するというもので、タンパク質やInhibitorの構造はProtein Data Bankのものを用いているため科学的に完璧に正確です。実践形式でどんどん教育をしています。

 

7.最後に

私のようなケースは非常に特殊だと思います。ただ1つ言えるのは、卒業までに一度、外の世界を見て日本との違いを体感し、現地の友達・知り合いをたくさん作っておくことはこれから先何十年もの人生を考えればかけがえのないものになると言うことです。臨床実習をするだけなら日本の方が効率は良いかもしれません。しかし、そこで敢えて海外に飛び出すことで、色々と考える面も多くなるのではないでしょうか。