海外クリニカルクラークシップ報告書
M3 male
■準備
Oregon health and science university (OHSU)の実習では、USMLEステップ1の取得は義務ではありません。しかし向こうでの英語を理解するために医学英語は必要なので、ステップ1の勉強をやりつつ、CSの練習をしていた友達に何度か相手をしてもらって問診や所見の取り方の練習もしてから臨みました。
■Oregon health and science university (OHSU)
ポートランド国際空港から路面電車で40分ほど進むと、ダウンタウンという市街の中心部に至る。そこから数キロ南の周囲より小高い場所にOHSU Hospitalは立っている。OHSUのStudent coordinatorであるMona Gonzalesさんに紹介してもらった所に宿泊した。病院までは徒歩で15分ほど。
■初日Orientation
一緒に回ったのは、OHSUの学生6人にドイツからの学生と自分を含めた8人であった。きっちり決められたスケジュールとともに、「An Introduction to Emergency Medicine」という約800頁ある本を渡される。ただし読むように求められるのはその中の半分弱ほどで、これが最終日にある筆記テストの範囲となる。
■AMR (Ambulance Ride)
救急隊員の一回のシフトである12時間、救急車に乗せてもらう。安全な街であるためか銃撃事件に会うことは滅多にないと思われる。救急隊員は親切で質問に存分に答えてくれ、終了後には車で宿まで送ってもらった。隊員の仕事は、気道確保、採血、ECG、IV確保、強心剤や解毒剤の投与など日本に比べてかなり広く許容されている。医師曰く、病院に搬送されるときにはすでに応急処置済みでIV確保され採血やECGの結果も出ているので非常に助かるとの言であった。
話は逸れるが、看護師のできることも救急隊員と同様に日本より多いらしく、日本で往診医がしていることはアメリカではほとんど往診看護師の手によってなされるそうだ。パラメディカルにできることは彼らに任せることによって、本当に自分でなければできない仕事に医師が集中できるし総じて医療の効率もアップするのではないかと感じた。
■Splint & Suture Lab
固定&縫合の実習。OHSUは本物の豚の足を使用させてくれる数少ない大学病院である。実際の皮膚や肉、腱に触れ何種類かの縫合をやらせてもらう。生身の感触や針の通りにくさを実感できた。
■Poison center
中毒や毒物摂取の治療の専門家がいる建物で、毒物に関する様々なコンサルテーションを請け負っている。一般人からの問い合わせに対応する現場を見学させてもらった。
■Wednesday Conference&Lectures
毎週水曜日は、朝7時からTrauma Conference、8時からEM Resident Conferenceがある。前者ではその名の通り外傷の見方や処置について、後者では救急医療に関連した様々なトピックや教育的な症例について、講師やレジデントがレクチャーを行う。興味深くかつ救急医療に関わる重要な内容であり、話している最中にもためらいなく質問が飛び交う活発な雰囲気の下、能動的な学習が行われる。ただし発言のほとんどはレジデント以上。
Conferenceでは先生やレジデントに学生が混在していたのに対し、午後のLectureは学生たちに講師一人がつくちょうど日本のクルズスのような講義だった。
■ED clinical experience
8〜9時間のシフト制。主にアテンディングやレジデントと一緒に行動して彼らの診察を見、疑問があれば質問するという感じ。たまたま日本人のレジデントについて回った時は診察させてもらったが、observerがやらせてもらえるのは基本的には見学と定められているようだ。一緒に回った班にいたドイツからの学生も同じようなことを言っていた。
EDのアテンディングは多忙だ。忙しい時はERの番組そのもの、むしろそれ以上に見えた。だが、その果てしないように見える仕事がひとたび途切れるとリラックスモードに入る。スタッフルームと廊下の間の透明なプラスチックの仕切りが防音壁の役割をしているために、結構思いっきり話してもその声が病室まで届くことはない。このONとOFFの明確な切り替えも、仕事中の集中力を保つのに貢献している一因ではないかと思った。
朝より夜(17〜22時くらい)の方が患者数は多い。自分の見た中で最も重症だったのは、スノーボードの最中にクラッシュしておそらくびまん性軸索損傷を起こしていただろう10代の症例。一番印象に残ったのは、腹部に真っ赤な潰瘍を生じたSpider biteであった。
■Extra activities
◇General internal medicineの半日見学
東大にも講義に来ているRebecca先生がいらっしゃるということで(当日は外勤でしたが)連絡を取り、朝7時からのチームカンファとその後の回診について回らせてもらった。受持ち患者を持っており、日本の内科に一番近い雰囲気。受持ちゆえに患者に関するPrimary responsibilityを負うのはほとんどこの一般内科であり、そこから必要に応じて腎臓・循環器・神経・感染症・血液内科といった他の専門科にコンサルトをするそうだ。
◇Family medicineの一日見学
日本人のアテンディングがいるということで、一日回らせてもらった。午前中はOHSUの大学病院でチーム回診、昼休みに勉強会、午後には丘の下にあるクリニックで診療というスケジュール。大学病院付きのクリニックであったためかFamilyという単語からイメージされるものとは少し違っており、不調を感じるが大学病院にまでは行く必要のない患者が自分で予約をして行く・または定期的にかかりつけ医に見てもらうという感じだった。大病院勤務に比べて重症患者の比率が低いので、大多数の軽症例の中から本当に検査や治療が必要な例を見分けることが重要になる。Family medicine医はそこにやりがいを感じるのだと、先生に熱く語っていただいた。
◇OHSU免疫系ラボ、West campusの見学
日本人レジデント方のつてで、Ph.D, M.Dコースに通う学生に案内してもらった。博士号を取った後には必ず臨床の勉強に戻って大学を卒業しなければならず、研究を開始するのは卒後レジデントを数年してからになる。大学病院やクリニックで一週間に3〜4回勤務しながら残りの時間でラボに行き、P.E.になるに足る成功を収めるために研究する。
土日は公的には休みだが、自分の研究のために土日も行くとのこと。彼も十分忙しいが、教授も同じように週に数回病院に勤務し、実は誰よりも忙しいとのことだ。
West campusは、ダウンタウンから列車で30分ほどの少し離れたところにある研究所で、数千頭ものサルを飼育してウイルスやワクチンの研究をしている。見学に行く数日前の地方紙に動物愛護団体のデモの記事が載っていたように、実験動物をめぐる研究者と民間の意識の差が問題になっているようだった。飼育しているのは、ニホンザルともう一種類。ちなみに、サルの飼育をしていること以外はOHSU内部のラボと同じであった。
■感想
救急隊員や看護師のできる仕事の多さなど、広い国土を持つアメリカで救急医療が機能していくための工夫を垣間見ることができた気がします。その一方で、アメリカよりはるかに低コストでこれだけの医療を提供できる日本の在り方を改めて誇りに感じるなど、普段とは異なる外からの視点を持てたのは良かったと思います。
日々の実習の中で日本と似ている部分にも違う部分にも気づくことができ、有意義な一か月でした。日常生活でも、ステイ先でホームパーティーがあったり、日本人レジデントの方と食事したり、ポートランドやシアトルに観光に行くなど、楽しいことが沢山ありました。新しい土地に行って色々な人と交流したことそれ自体もまた、自分の狭い視野を少しでも広げることに貢献してくれたのではないだろうか、と思います。
この貴重な機会を与えてくださった国際交流室の丸山先生、Student coordinatorのMs.Mona、そして奨学金を下さった大坪修先生には、心より感謝を申し上げます。今回学んだことや感じたことを、今後に生かしていきたいと思います。ありがとうございました。